抄録
脂肪酸合成系のstearoyl-ACP-desaturaseに変異を生じたシロイヌナズナssi2変異体は,矮化形態,自発的細胞死の誘導,サリチル酸並びに防御関連遺伝子の恒常的な蓄積を伴い,広範な病原体に対する基礎的防御機構の増強が認められる.本研究では,ssi2変異体にさらにEMS処理を施すことによりssi2特異的な表現型を抑制した復帰変異体rdc2 ssi2を得て,病害抵抗性誘導に機能する脂肪酸シグナル伝達系に関わる因子を新たに見出すことを目的とした.rdc2 ssi2二重変異体は,ssi2の表現型が完全には抑制されておらず,野生型の植物に比べて多少の矮化が認められた.また,野生型の植物との戻し交配により得たrdc2単独の変異体は,葉が若い時期に淡緑色になる特徴的な表現型を呈した.さらに,rdc2単独の変異体は,野生型の植物と比較して,1)クロロフィル含量が少ないこと,2)活性酸素を発生させることにより細胞死を誘導するパラコートを処理した際の壊死斑の形成が抑制されること,3)非親和性の病原体の感染に対する活性酸素の発生が抑えられ,抵抗性が弱まることが分かった.以上より,RDC2遺伝子は活性酸素の生成に関与すると推察され,脂肪酸合成系の関わる抵抗性シグナル伝達系は活性酸素を介する経路で誘導される可能性が考えられた.