抄録
植物が複雑な形をつくりあげるためには、細胞同士の緊密な連携が不可欠である。近年、植物細胞間の相互作用を担う情報伝達物質として、様々なペプチド性のシグナル分子が単離されてきている。中でもCLE(CLAVATA3/ESR)ペプチドは、主に分裂組織で機能し、細胞レベルでの分裂や分化の厳密な制御に関わる。これらペプチド群をコードするCLE遺伝子は、シロイヌナズナに32遺伝子存在するが、まだ多くの遺伝子の機能については不明な点が多い。そこで、CLEペプチドの新規機能探索のため、26種のCLEペプチドを化学合成し、植物体への影響を調べた。その結果、CLE9/10ペプチドが原生木部道管の形成を阻害することを明らかにした。更に、CLE10遺伝子の過剰発現体においても同様に原生木部の形成阻害がみられた。その一方、CLE受容体の機能欠失変異体clv2では逆に過剰な原生木部道管が形成された。これらの結果は、内生のCLE遺伝子が原生木部形成の制御に関わる可能性を示唆している。次に、CLEペプチドの作用機構を解明するため、ペプチド処理時の遺伝子発現の変化を網羅的に解析した。興味深いことに、サイトカイニンのシグナル伝達経路の負の制御因子(Type-A ARRs)の発現量が有意に減少していた。これらの結果をもとに、遺伝学的解析を行ない、CLEペプチドとサイトカイニンシグナルとのクロストークの一端を明らかにした。