抄録
葉緑体はランソウ様の光合成原核生物が宿主細胞に共生して生じた。ランソウには約3000の遺伝子が存在するが、高等植物の葉緑体には130個程度の遺伝子しか存在しない。これは、植物が葉緑体遺伝子を減少させる方向で進化してきたためであり、共生した始原葉緑体では、(1)多くのDNAが核に移行し、(2)個々の遺伝子が核内での発現調節機構および葉緑体移行シグナルを獲得し、(3)葉緑体内に残った相同遺伝子が不活性化(偽遺伝子化)した後に消失した。この進化過程の一時期には、核ゲノムと葉緑体ゲノムの双方に存在する相同遺伝子が同時に機能する必要があるが、現存の植物でそのような例は知られていない。葉緑体30SリボソームサブユニットのS16タンパク質をコードするrps16遺伝子は、多くの高等植物では核ゲノムと葉緑体ゲノムの双方に存在し、核ゲノム由来のS16タンパク質が葉緑体に輸送されている。そこで、高等植物の葉緑体ゲノムに存在するrps16遺伝子が機能性遺伝子かどうかについて、タバコをモデルに検証を行った。