抄録
リンドウは、初夏から晩秋にかけて開花し、主に切り花として市場に流通している。リンドウの開花生理に関する学術的な研究は行なわれておらず、その機構は未だ明らかにされていない。そこで我々は、リンドウの花成誘導機構の解明を目的に、花成への関与が報告されているFT/TFL1遺伝子群のオルソログ(GtFT1、GtFT2、GtTFL1)を単離した。単離した遺伝子をシロイヌナズナに導入したところ、GtFT1、GtFT2は開花が早くなり、GtTFL1は開花が抑制されることが示された。リンドウでのこれら遺伝子の経時的な発現解析を行なった結果、花成直前の葉において2つのGtFTの発現量が顕著に上昇し、GtTFL1では栄養生長期の茎頂で高い発現量が確認された。さらに、開花期の異なる2系統(早生、晩生)について発現比較を行なった。その結果、2つのGtFTは、両系統で花成直前に発現が上昇していたが、GtTFL1では、晩生系統でのみ発現の変動が観察された。このGtTFL1の発現パターンの違いについて詳細に解析したところ、早生系統においてプロモーター領域に320 bpの挿入配列があることが明らかとなった。今回の研究から、GtFTの発現上昇がリンドウの花成誘導に重要であること、さらにGtTFL1の栄養生長期での発現が花成誘導の時期を制御する要因の1つであることが示唆された。