抄録
植物は、様々なストレスに適応するために独自の自己防御機構を備え、外的なストレスによって全身に誘導される重要なシグナルとして植物ホルモンが働くことが知られている。アブシジン酸を介する環境ストレス応答シグナルが、サリチル酸を介する全身獲得抵抗性誘導シグナルを抑制することが明らかとなり、サリチル酸とアブシジン酸の両者にシグナルの相互抑制的な関係が存在することが示されてきた。このように、サリチル酸、アブシジン酸、ジャスモン酸の3つの植物ホルモンは相互に拮抗的関係にあり、外からの生物的・非生物的ストレスに対する応答がこれら三つ巴の相互関係により制御されていることが示唆されている。前大会では、サリチル酸、アブシジン酸、ジャスモン酸を処理した野生型の葉組織を材料に、植物ホルモンシグナルのバランスと病傷害抵抗性に関わる植物ホルモン応答性遺伝子発現の関係について報告した。今回は、サリチル酸、アブシジン酸、ジャスモン酸等の各種植物ホルモンの生合成変異体またはシグナル変異体を材料に、植物ホルモン処理や各種のストレス処理を組み合わせ、植物ホルモン濃度のバランスと植物ホルモン応答性の遺伝子発現の関係について解析した。その結果、様々なストレスに応答する植物ホルモン応答性遺伝子の発現には、1つの植物ホルモンの増減だけではなく、植物組織の内生植物ホルモンのバランス変化が重要であることが示唆された。