抄録
植物細胞壁は、無数の多糖やタンパク質から成る複雑な高次構造物である。一般に被子植物の一次細胞壁は、セルロース微繊維をキシログルカンが架橋し、その架橋構造の間隙をペクチンや構造タンパク質が埋めることで構築されている。しかし、陸上植物は様々な環境に適応するために、多様な細胞壁を進化させてきたものと考えられる。例えば、イネなどの穀物類の一次細胞壁は、キシログルカンが殆どなく、(1,3)(1,4)-β-D-グルカン(MLG)やグルクロノアラビノキシラン(GAX)がセルロース微繊維と架橋構造を形成し、さらにGAXがフェニルプロパノイドと結合した独自の構造を持つ。
近年、植物から生産されるバイオエタノールがガソリンなどの代替エネルギーとして期待されることから、植物の「細胞壁」を原材料としたセルロース系バイオエタノールの研究開発が国内外で急速に進んでいる。イネなどの穀物類も原材料として注目されているが、上述の通り、穀物類の細胞壁は独自の構成成分と構造を持ち、他の被子植物の細胞壁以上に不明な点が多い。特に穀物類の細胞壁に特徴的なヘミセルロースの機能については殆ど解明されていない。我々は、イネの研究材料として、穀物類の細胞壁に特徴的なヘミセルロースの植物体における機能解明を目指すとともに、そのような多糖を改変したイネ植物体を原材料としたバイオエタノールの生産についての研究開発を進めている。