抄録
トラウマ処理は,フラッシュバックの治療のための特殊な精神療法である.今日,トラウマを中核とする病態によく遭遇する.発達性トラウマ症,つまり発達障害と診断される子ども虐待症例は多く,その親はしばしば複雑性PTSDと診断される.その一方,いじめ,対人関係の齟齬,災害被害,COVID-19パンデミックなど,小トラウマも多い.トラウマは見えにくい問題である.臨床家が意識しなければ見逃しが生じる一方で,ひとたびこの視点を獲得すると難治性と考えられてきた症例はことごとくトラウマを背後に持つことが見えてくる.本論文では,簡易型トラウマ処理技法であるTSプロトコールを紹介し,発達性トラウマ症の子どもと複雑性PTSDの親への家族併行治療,催眠を用いないTS自我状態療法,さらに小トラウマに起因するフラッシュバックへの治療などの実際を紹介した.安全なトラウマ処理を学ぶことで臨床の幅を拡げることが可能になる.