日本惑星科学会秋季講演会予稿集
日本惑星科学会2003年秋季講演会予稿集
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オーラルセッション8 10/10(金)15:00~16:15
木星型惑星領域における原始惑星系軌道の安定性について
*岩崎 一典榎森 啓元中澤 清
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p. 94

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抄録
惑星形成理論における重要な問題の一つに木星型惑星のガス捕獲時間の問題がある。これは、標準的な原始惑星系円盤から作られる固体核(原始惑星)の質量が小さすぎるために固体核のガス捕獲の時間が観測から推定されるガス円盤の寿命よりも長くなってしまうという問題である。この問題の解決策として、原始惑星同士の衝突合体によって質量を増加させるという方法が考えられる。しかし、ガス円盤には、原始惑星と重力相互作用することによって、その軌道離心率を下げる効果があることが知られているので、ガス円盤の存在下では、原始惑星同士の軌道交差が妨げられ衝突合体が起こらない可能性がある。よって、原始惑星系が、どのような条件(ガス円盤の残存量、初期の軌道配置等)のもとで軌道不安定(交差)を起こすのかを調べることは、原始惑星からガス惑星への成長過程を知るうえで極めて重要である。
本研究では、ガス円盤の存在下での原始惑星系の軌道安定性を調べた。原始惑星系としては、等質量(3倍の地球質量)の原始惑星を5個、円軌道で同一平面上に等間隔に配置した系を考えた。まず始めに、ガス円盤が存在しない場合について、原始惑星系軌道の初期配置間隔をパラメータとして、数値軌道計算を行った。原始惑星系をどのような間隔に配置した場合でも、ある一定時間後に必ず軌道不安定(交差)を起こし、その時間は、配置間隔に対して指数関数的に増加することが明らかにされた。このことは、地球型惑星領域(原始惑星の質量が0.1地球質量程度)における軌道不安定性については、既にChambersらによって指摘されているが、木星型惑星領域では比例係数等が異なっていることが確認された。また、ガス円盤の存在を考慮に入れない時は、惑星集積理論によって示唆される典型的な配置間隔を持った原始惑星系では、ガス円盤の寿命内に十分軌道不安定を起こしうることが解った。
次に、ガス円盤が存在する場合について、原始惑星系の配置間隔とガス円盤の面密度をパラメータとして計算を行った。ガス円盤が原始惑星に与える重力相互作用は、原始惑星のランダム速度(円軌道からのずれの速度)の1次に比例する抵抗力として軌道計算に組み込んだ。その結果、原始惑星の配置間隔が小さい時には、ガス円盤がない時と同様の時間で軌道不安定を起こすが、配置間隔がある閾値(臨界配置間隔)より大きくなると、系は急激に安定化され、実質的には軌道不安定を起こさないことが解った。また、存在するガス円盤の面密度が小さくすると、臨界配置間隔は大きくなる(即ち、系はより不安定になる)ことが見出された。さらに、臨界配置間隔の大きさをガス円盤の面密度の関数として与える式を導出した。
上記の結果を、木星型惑星領域において典型的な配置間隔を持った原始惑星系に適用すると、標準的な太陽系形成モデル(林モデル)におけるガス円盤の面密度では、原始惑星系は軌道不安定を起こさず、軌道不安定を起こすためには、面密度が標準モデルの1000分の1程度まで減衰する必要があることが解った。さらに、木星や土星等の巨大ガス惑星の形成には、標準モデル(林モデル)と同程度の面密度を持つガス円盤が必要になることを考えると、原始惑星同士の軌道不安定(交差)及び衝突合体によるガス捕獲時間の短縮は極めて難しいことが明らかにされた。
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© 2003 日本惑星科学会
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