日本予防理学療法学会 学術大会プログラム・抄録集
Online ISSN : 2758-7983
第8回 日本予防理学療法学会学術大会
会議情報

地域実践活動1
身体的・心理的に健康な男性高齢者では歩行能力と近隣環境が関連する:回帰木分析による探索的検証
安藤 雅峻上出 直人柴 喜崇坂本 美喜村上 健渡辺 修一郎
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. 47

詳細
抄録

【目的】

高齢者の歩行能力は,生活機能を維持するための重要な規定要因である.近年,システマティック・レビューにて,高齢者の居住地周辺の環境要因(近隣環境)が,歩行能力等の身体機能と関係することが報告されている(Won,2016;Rachele,2019).しかし,関連研究において,結果が一致していない点がある.研究間の結果の不一致の背景として,対象者の属性(年齢,健康状態等)が影響している可能性が考えられる.そこで,本研究の目的は,歩行能力と近隣環境要因について,両者の関連性に影響を与える高齢者の属性を,回帰木分析を用いて探索的に検証することとした.

【方法】

本研究のデザインは横断研究であった.対象は,要支援・要介護認定を受けていない65歳以上の地域在住高齢者624名(71.7±4.7歳,男性174名)とした.歩行能力の指標として,5m歩行時間を快適速度条件にて測定した.近隣環境の指標として,国際標準化身体活動質問紙環境尺度(IPAQ-E)の日本語版を用い,住居密度,商店・スーパーへのアクセス,バス停・駅へのアクセス,歩道,自転車道,運動施設へのアクセス,犯罪(夜間),交通安全,運動実践者,景観の10項目について評価した.その他,混乱要因として,基本属性,精神・心理的要因,社会的要因を調査した.統計解析は,性別で層化して行った.はじめに,歩行能力と関連を示す近隣環境要因を抽出するため,従属変数を歩行能力,独立変数を近隣環境要因,調整変数を混乱要因とする重回帰分析(ステップワイズ法)を行った.次に,CaRT(Classification Regression Tree)アルゴリズムによる回帰木分析を用いて,近隣環境要因と混乱要因によって歩行能力を分類する回帰木モデルを生成した.決定木分析では,先の重回帰分析においてモデルに採用された近隣環境要因および混乱要因を投入した.最後に,回帰木モデルによって分類された群間の比較を,Kruskal Wallis検定およびpost-hoc検定(Steel法)にて行った.

【結果】

重回帰分析の結果,男性では,歩行能力と近隣の運動施設へのアクセス(B=-0.31,p=0.004)が有意な関連を示した.続いて,回帰木分析の結果,男性高齢者の歩行能力に関連する要因として,年齢,腰痛,うつ状態,運動施設へのアクセスが選択された.具体的には,80歳以下で,腰痛およびうつ状態がない男性高齢者において,近隣の運動施設へのアクセスが良いと5m歩行時間が短いことが示された(p<0.001).一方,女性においては,5m歩行時間と関連を示す近隣環境要因は抽出されなかった.

【結論】

本研究の結果,男性高齢者においては,比較的年齢が若く,身体的・心理的に健康状態が良好な場合,近隣の運動施設へのアクセスが歩行能力の維持に関連することが示唆された.男性高齢者の年代や健康状態に応じ,近隣環境の評価や利用可能な運動施設などの情報提供が介護予防策として有用であると考えられた.

【倫理的配慮、説明と同意】

本研究は北里大学医療衛生学部研究倫理委員会の承認を得て実施した(2018-008B).また,全対象者には書面によるインフォームドコンセントを得た.

著者関連情報
© 2022 日本予防理学療法学会
前の記事 次の記事
feedback
Top