日本予防理学療法学会 学術大会プログラム・抄録集
Online ISSN : 2758-7983
第8回 日本予防理学療法学会学術大会
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産業その他
理学療法士によるセルフストレッチ・プログラムの提供が就労者の腰痛に与える影響
加藤 俊宏桒原 健太西村 明展大槻 誠若杉 悠佑福田 亜紀加藤 公湏藤 啓広
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p. 61

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抄録

【はじめに、目的】

作業関連性筋骨格系障害は、身体に過度の負担をかける作業の繰り返しによって生じる痛みや機能障害として定義される。就労者における筋骨格系疼痛のうち腰痛の有訴率は最多で、4日以上の欠勤との関連性も最も高い。理学療法士が職場で行う健康増進プログラムは就労者の筋骨格系疼痛の予防に有用であることが報告されている。しかし、これらの報告は海外で実施されたものが中心で、作業環境や条件の異なる日本国内の企業を対象にした報告は限られている。そこで本研究の目的は、理学療法士が職場で提供するセルフストレッチ・プログラムが、従業員の腰痛を減少させるかどうかを検討することとした。

【方法】

デザイン:日本の化学製品会社において、12ヶ月間の前後比較試験を行った。

参加者と測定方法:ベースライン調査では,153名の参加者が質問票調査と下肢筋タイトネステストを受けた。質問票では、年齢、性別、職業群類、腰痛による過去の欠勤歴、現在の腰痛のVAS(visual analog scale)、腰痛を伴う姿勢・作業、Yellow flag sign の評価としてKeele STarT Backスクリーニングツール、QOL(Quality of Life)評価としてEQ5D5L(EuroQol 5 dimensions 5-level)を聴取した。下肢筋タイトネスは、理学療法士がElyテスト、Oberテスト、Thomasテスト、SL(Straight Leg Raising)テストにて評価をおこなった。さらに、筋タイトネス部位の合計数を算出した。

対象者の除外基準:Red flag signにて自己管理すべきでない腰痛を有する者は介入対象から除外した。

介入方法:対象者の筋タイトネス部位に応じたセルフストレッチ・プログラムを提供し、実施させた。

【結果】

介入後の調査には55名(平均年齢40.6±11.3歳、男性46名女性9名)が参加し、フォローアップ率は35.9%(55/153名)であった。過去の腰痛に関する問診では、仕事に支障のある腰痛経験は49.3%、腰痛による欠勤経験は18.2%が有していた。腰痛のある作業は「荷物の持ち上げ、積み込みなど」が最多(32.7%)で、次いで「荷下ろし」(20.0%)「運搬」(18.2%)であった。腰痛のある姿勢は職業群類によらず体幹の屈曲肢位が最多(32.7%)であった。Yellow flagに該当したのは1.8%(1/55名)であった。介入前後の腰痛有訴率は、36.4%(20/55名)から23.6%(13/55名)に有意に減少した。筋タイトネスは、SLRテスト陽性が最多(81.8%)であった。介入前後で筋タイトネス部位数(2.96±1.6 vs. 1.69±1.6, p<0.001)およびVAS(9.4±16.0 vs. 5.5±11.9, p = 0.042)は有意に減少した。QOLスコア(0.937±0.07 vs. 0.932±0.08, p = 0.684)には有意な差はなかった。

【結論】

理学療法士が各対象者を個別に評価し、その評価結果に基づいたセルフストレッチ・プログラムを提供することで1年後の腰痛有訴率は低下した。本研究は前後比較試験であり、さらにフォロー率も低いため、今後は比較対照試験を行い効果を検討する必要がある。

【倫理的配慮、説明と同意】

本研究はヘルシンキ宣言・人を対象とする医学系研究に関する倫理指針に沿って行われた。対象者には個別に文書と口頭で説明し、署名を得た。また、事前に三重大学・鈴鹿医療科学大学の倫理委員会から承認を得て実施された。

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