日本予防理学療法学会 学術大会プログラム・抄録集
Online ISSN : 2758-7983
第9回 日本予防理学療法学会学術大会
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転倒予防2
摂動型トレッドミル装置を用いた地域在住高齢者への介入効果
伊藤 憲一嘉村 知華橋口 聖剛高野 吉朗松瀬 博夫
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p. 90

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抄録

【はじめに、目的】

転倒予防には複合的な介入が効果的とされている。バランス能力には方向転換時などに働く予測的姿勢制御と突然の外乱などに対する反応的姿勢制御があるが、一般的に行われるバランスへのアプローチは予測的姿勢制御に基づく内容が中心となっている。本研究の目的は、地域在住高齢者を対象に反応的姿勢制御を惹起することが可能な摂動型トレッドミル装置を用いて身体機能と注意機能、転倒自己効力感に対する介入効果を検証することである。

【方法】

対象は地域在住の健康な70歳以上の右利き女性11名(74.6±2.2歳)である。Medi Touch社のBalance Tutor(以下BT)を使用し、トレッドミル上での快適歩行に4方向からの摂動を加えるトレーニングを24回(2回/週)行った。BTにて閉脚立位での4方向の摂動負 荷時にステップ反応出現レベルを転倒閾値(1~25)とした。介入 は準備運動の後、閉脚立位での摂動負荷5分、摂動歩行5分、快適歩行5分、摂動歩行5分とした。歩行時の摂動は各自の転倒閾値より2~3レベル低い強度を設定し、10秒間隔でランダムに加えた。トレーニング中は転倒防止のためのスリングを装着し、各セッション間には2分間の休憩を設けた。測定項目は10m歩行速度、Timed Up & Go(TUG)、ファンクショナルリーチ(FRT)、チェアスタンドテスト(CS-5)、Four square step test(FSST)、2ステップテスト値(2STV)、膝伸展筋力体重比(WBI)、片脚立位時間(OLS)、3分間歩行距離(3MWD)、TMT-A、TMT-B、転倒関連自己効力 感尺度(FES-I)とし、Wilcoxon符号順位検定で介入前後の比較を行った。また、介入前後の転倒閾値変化量と各測定項目の変化量をSpearman相関係数にて関連をみた。統計ソフトはR4.1.2(CRAN)を使用し、有意水準は0.05以下とした。

【結果】

左OLSが介入前24.06[12.58-59.04]秒、介入後41.50[29.97-75.63] 秒であり有意に向上した(p<0.05)。その他の身体機能やTMT-A・BおよびFES-Iは改善傾向はあるも統計学的有意差はなかった。介入前後の転倒閾値変化は、前0[0-2.5] 後0[-1-1] 右側4[1-5] 左側4[1.5-5] であった。転倒閾値変化量と測定項目との関連では左OLSと右摂動(r=0.70,p<0.02)、FSSTと左摂動(r=0.69,p<0.02)、3MWDと左摂動(r=0.61,p<0.05)、TMT-Bと前摂動(r=0.65,p<0.03)、FES-Iと前摂動(r=0.83,p<0.02)に相関関係がみられた。また、今回の介入による有害事象はなかった。

【結論】

転倒回避のバランス能力の一つである反応的姿勢制御に着目し、摂動型トレッドミル装置を使用して摂動トレーニングを行った。安全を配慮したスリングを使用し、快適歩行中に不意に加わる摂動により躓きやスリップなどの疑似刺激を加えたが有害事象はみられなかった。左OLSの有意な変化はステップ反応出現に必要な支持脚の機能変化を示唆している可能性がある。また、介入後の各方向の摂動変化との相関から、摂動方向の特異性および歩行中の摂動トレーニングによる注意機能および転倒自己効力感への影響が推察される。転倒予防の視点として反応的姿勢制御へアプローチを行うことは有用かもしれない。

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究は国際医療福祉大学(承認番号19-Ifh-041)および大牟田吉野病院(承認番号19-02)の倫理審査委員会の承認を得て行った。また、本研究参加者への説明は文書および口頭にて行い、書面にて同意を得た。

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