主催: 日本臨床薬理学会
会議名: 第42回日本臨床薬理学会学術総会
回次: 42
開催地: 仙台
開催日: 2021/12/09 - 2021/12/11
【背景・目的】血圧や心拍数などの循環器機能には概日リズムが認められ、これらのリズムは概日時計機構により調節されている。またこれを反映し、循環器疾患の好発時間や病態進行も体内時計と相関していることが近年報告され、注目を集めている。しかし、その詳細な機序は未解明な点が多い。そこで本研究では、慢性的な高血圧を伴う慢性腎臓病(CKD)を対象に、概日時計機構が循環器及び心臓の病態に及ぼす影響について解析を行った。
【方法】ICR雄性野生型マウス(WT)およびClock改変マウス(Clk/Clk)腎臓を5/6摘出し、その後8週間飼育することでCKDモデルマウス (5/6 Nephrectomy: 5/6Nx) を作成した。また、対照としてSham群を作成し、各種解析を行った。膠原線維の染色はマッソン・トリクローム染色を用い、各種因子の発現量変化は、マイクロアレイ法、リアルタイムPCR法、ELISA法を用いて測定した。
【結果・考察】CLOCKは概日時計機構における中核分子であるため、Clk/Clkの循環器機能は異常なリズムを示す。そこで初めに、WTおよびClk/Clkを用いて5/6Nxを作成し、血圧、血中Angiotensin II濃度(AT2)、心線維化を比較した。その結果、Clk/Clkにおいて血圧およびAT2はWTより高値を示したにもかかわらず、心線維化は抑制された。この原因解明のため、マイクロアレイ法を用いて(1)正常時に概日リズムが認められ、(2) CLOCKによって発現が制御され、(2) 5/6Nxで発現変容が認められる遺伝子を探索した。その結果、5/6Nx時の単球および心室マクロファージにて発現が顕著に上昇する受容体としてG protein-coupled receptor 68 (GPR68)を同定した。また、GPR68のノックダウンはClk/Clkと同様、血圧やAT2の抑制を介さずに5/6Nxの心臓病態悪化を抑制した。さらに、この受容体の発現上昇を誘導する血中因子を探索したところ、CKD時の血中レチノール蓄積に起因する概日時計機構の変容が、上記受容体の発現を誘導することが明らかになった。この発現誘導はCKD患者から採取した血清をヒト単球細胞へ曝露した際にも認められた。以上の結果より、本研究にて明らかにした機序がCKD患者の心疾患の原因となっている可能性が示された。
【結論】概日時計機構に着目した解析によって、CKD誘発慢性心不全の新規メカニズムを解明した。本研究によって原因分子として同定された各種因子を標的とした新たな治療アプローチの開発が期待される。