主催: 日本臨床薬理学会
会議名: 第43回日本臨床薬理学会学術総会
回次: 43
開催地: 横浜
開催日: 2022/11/30 - 2022/12/03
欧米では、創薬における分業が明確に成立している。すなわち、バイオテックと呼ばれる中小規模の創薬ベンチャー企業が、よりリスクの高い基礎研究から早期臨床開発までを、製薬企業が後期の臨床開発とマーケティングをそれぞれ担っている。すでに過去10年以上にわたってFDAで承認された新薬の半数以上は創薬ベンチャー由来である。実際、新型コロナ感染症のワクチンをいち早く実用化したのは、ビオンテックとモデルナのどちらも創薬ベンチャーであった。一方、日本で承認された新薬のうち、国内創薬ベンチャー由来のものは、2016年度から2020年度の5年間でわずかに3品目(197品目中)のみであった。また、2010年度に日本で承認された新薬(新有効成分、39品目)の国内製薬企業の自社創製品の割合は23%(9品目)であったのに対して、2020年度のそれは9%(44品目中4品目)と低下していた。一方、国外創薬ベンチャー由来の新薬は、2010年度の15%に対して2020年度は36%に増加した。これらの数値は端的に日本国内の創薬力の低下を示唆している。
我々は、2018年、ARTham Therapeutics(ARTham)を創業した。ドラッグリパーパシング仮説の設定、製薬企業からの化合物の導入、ターゲットプロダクトプロファイルに基づく研究開発計画の策定、必要な非臨床試験の実施、新規の小児用製剤開発、第I相試験におけるバイオマーカープランやモデリング&シミュレーションによる臨床用量設定、自然歴取得のための前向き観察研究、遺伝子変異調査のための臨床研究、国内外専門医との協業によるプロトコール作成と第II相試験の実施、グローバル開発のためのFDAとの相談、後期開発のための製薬会社への引継ぎ。これらは全てARThamが、創業以来4年あまりで行った新規PI3K阻害薬ART-001の小児から発症する希少疾病、低流速型脈管奇形を対象とした早期臨床開発である。ARThamが、アカデミアや関係各社とともに展開したバーチャルR&Dモデルにより効率的に研究開発を進めた結果であり、このプロセスを紹介する。国内創薬ベンチャーの生産性向上へ向けての話題としたい。