主催: 日本臨床薬理学会
会議名: 第43回日本臨床薬理学会学術総会
回次: 43
開催地: 横浜
開催日: 2022/11/30 - 2022/12/03
【目的】非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、薬物性肝障害(DILI)の独立した宿主リスク因子である。NAFLDでは肝ミトコンドリアの機能的・分子的変化が生じ、DILI誘発薬物の多くに共通する性質として肝ミトコンドリア毒性が知られること、世界有病率25%を誇るNAFLD患者数が一層増加することを考えると、NAFLDを考慮した肝ミトコンドリア毒性評価が医薬品開発時の潜在的なDILIリスク予測に有益であると想定される。そこで本研究では、NAFLDの肝ミトコンドリアにおける薬物感受性および障害に伴いミトコンドリアから放出する分子群を網羅的に解析し、NAFLDミトコンドリア応答性に基づいた新規のDILIリスク評価系開発につながる知見を得ることを目的とした。
【方法】肥満糖尿病NAFLDモデルdb/db、非NAFLDのdb/+マウスを実験に用いた。肝ミトコンドリア画分を単離して肝毒性薬物に対する障害性を膨潤により評価し、膨潤に伴う膜障害で放出される分子に対してプロテオーム解析を実施した。さらに、同定した分子間のネットワーク解析を行い、肝ミトコンドリア毒性が起こす生物学的事象を記述した。
【結果・考察】肝毒性薬物によるミトコンドリア膨潤はdb/dbマウスで有意に強く誘発された。呼吸機能State3/State4は両群間に差は見られなかったが、プロトノフォアFCCPで誘発される最大酸素消費量は、db/dbマウスで有意に高かった。肝毒性薬物による膨潤で放出された分子のうち、2倍以上変動した分子数はdb/dbマウスで300種類以上多く、変動分子を用いたネットワーク解析から、db/dbとdb/+では肝ミトコンドリア障害で放出される分子が起こす生物学的事象、関与が高い病理学的イベント、シグナル伝達が異なり、db/dbマウスにおいてのみ肝毒性、肝細胞死のイベントが抽出された。さらに、db/dbマウスで自然免疫応答を誘導するミトコンドリアDNAの強い放出が見られた。さらに、ミトコンドリア放出分子からDILIバイオマーカー候補を絞り込んだ。
【結論】肥満糖尿病NAFLDと正常肝ではミトコンドリア膨潤の感受性および膨潤に伴い放出する分子のプロファイル、関連するイベントが異なることがわかった。本知見は正常肝では予測できない潜在的なDILIリスクの検出に寄与するものと言える。