主催: 日本臨床薬理学会
会議名: 第43回日本臨床薬理学会学術総会
回次: 43
開催地: 横浜
開催日: 2022/11/30 - 2022/12/03
【目的】本邦では2019年に初めて吸入剤の後発医薬品が上市された。吸入剤は他の剤形と異なり、その安全性・有効性が製剤やデバイス、患者の服薬行動によって決まるため、先発医薬品と互換性及び代替性のある後発医薬品の開発は困難であると言われている。また、吸入剤の切り替えによってアドヒアランスが低下し、疾病管理に悪影響を及ぼす可能性があるという懸念もある。このような背景がある吸入剤の後発医薬品への切り替えに関する研究はまだ報告がないため、本研究では、レセプトデータを用いて、切り替え要因について検討を行った。
【方法】インテージ株式会社が提供しているCross Factデータベース(データ期間:2014年7月1日~2021年6月30日)を用いて検討を行った。対象疾患は喘息とし、ICD10コードのJ45(喘息)及びJ46(喘息発作重積状態)で定義した。解析手法として、ロジスティック回帰分析を用いた。目的変数には、後発医薬品の上市後1年間の間に後発医薬品へ切り替えた患者をイベントありと定義した「切替率」を用い、説明変数には、収集された患者情報である年齢や性別、対象医薬品の服用歴、病床数や病院の種類といった受診医療機関の特徴など後発医薬品への切り替えに影響を与えうる因子を設定した。また、後発医薬品へ切り替えた患者集団の中で、再度先発医薬品に切り替えた集団についても同様の検討を行った。
【結果・考察】解析対象患者の背景は、平均年齢46.1歳、対象医薬品の平均服用期間2.2年、後発医薬品上市日から後発医薬品に切り替えた日までの平均日数は169日、再度先発医薬品を服用するまでの平均日数は114日であった。ロジスティック回帰分析の結果、年齢及び対象医薬品の服用期間が切替率に影響があることが認められた。高齢になることにより、後発医薬品の上市後も先発医薬品を服用し続ける患者の割合が有意に上昇する結果が得られた。また、対象医薬品の服用期間が長い程、先発医薬品を服用し続ける患者の割合が有意に上昇した。これらの結果から、高齢化、又は対象医薬品の服用期間が長期化すると、後発医薬品への切り替えに慎重になる傾向が示唆された。この理由として、吸入剤は一般的に吸入方法の習得が難しいため、後発医薬品の吸入方法を新たに習得することを躊躇することが考えられた。
【結論】本研究により吸入剤の後発医薬品への切り替え要因に年齢、服用期間の長さが関係する事が示唆された。