日本臨床薬理学会学術総会抄録集
Online ISSN : 2436-5580
第43回日本臨床薬理学会学術総会
セッションID: 43_3-C-S37-3
会議情報

シンポジウム
BNCTへ応用できる薬理技術
*金井 好克
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)においては、効率良くかつがん細胞特異的に10Bを送達することが、BNCT効率化のための重要な要請のひとつである。そのためには、正常細胞とがん細胞を区別できるがん細胞特有の性質を標的として、それを有効に利用した10Bの送達方法を考案する必要がある。10Bを有機化合物に組み込みがん細胞に送達する場合、その化合物ががん細胞に効率良く取り込まれるためには、がん細胞の細胞膜に存在する輸送体(トランスポーター)の良好な基質となることが必要である。さらに、標的とするトランスポーターががん細胞特異的に高発現していることが望ましく、また当該化合物が正常細胞のトランスポーターによっては輸送されないことが好ましい。加えて、標的とするトランスポーターの発現をPET等で簡便に検出できることが治療の適用において有用である。現在BNCT臨床で実用化されているL-p-ボロノフェニルアラニン(L-BPA)においては、臨床での有効性の実証が先行したが、その後の機序の解析により、以上のような要請が実現された化合物であることが判明している。

 L-BPAはボロン酸であるが、L-フェニルアラニンの構造を持つため、大型側鎖をもつ中性アミノ酸を受け入れるトランスポーターに輸送される。特に、がん細胞に高い特異性を持って発現するアミノ酸トランスポーターLAT1(SLC7A5)に高親和性に取り込まれる。LAT1は多くのがんに高発現し、特異的なPETプローブが開発されており、がんの診断マーカーとなるとともに、その阻害薬は抗腫瘍薬として臨床開発が進行している。L-BPAはLAT1の良好な基質であり、これによりがん細胞特異的な集積を実現していると考えられる。BNCTへの応用を念頭においたホウ素化合物としては、特定のがん細胞に発現するオリゴペプチドトランスポーターを標的としたジペプチド型の化合物も可能であるが、多くのがんに高発現するLAT1を標的した方が汎用性は高い。さらに、L-BPAには、18F標識したPETプローブが開発されており、BNCTと組み合わせた治療戦略が可能である。将来、がん細胞への10B送達効率をより高めるために、ホウ素含有量の高い化合物が試みられる可能性があるが、その際にも、トランスポーター薬理学を技術基盤として化合物デザインと最適化が実現されていくと期待される。

著者関連情報
© 2022 日本臨床薬理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top