主催: 日本臨床薬理学会
会議名: 第43回日本臨床薬理学会学術総会
回次: 43
開催地: 横浜
開催日: 2022/11/30 - 2022/12/03
近年保険収載が進められた粒子線治療は,荷電粒子が一定深度でエネルギーを急速に失い停止する特性を利用している.また,定位放射線治療や強度変調放射線治療(IMRT)に代表されるエックス線・ガンマ線の高精度機器も空間的選択性が高く,合併症を軽減し,より効果的な治療を可能にしている.一方で,脳組織へ浸潤する悪性神経膠腫では,広く脳を照射野に含めた治療が前提であり,腫瘍細胞選択的なアプローチが理想である.悪性脳腫瘍以外にも,呼吸性移動のある肝臓や肺の多発性腫瘍,放射線治療後の再発癌の放射線治療において,腫瘍細胞選択的なアプローチが望ましい.
中性子捕捉療法(boron neutron capture therapy: BNCT)は,ホウ素の非放射性同位体10Bを含有する腫瘍親和性薬剤をあらかじめ患者に投与し,薬剤を取り込んだ腫瘍細胞内で惹起される中性子捕捉反応によって発生した短飛程かつ高LETの粒子線(アルファ粒子,リチウム粒子)によって10ミクロン程度の限局した選択的照射を実現する.
第一世代のBNCT研究は悪性神経膠腫を対象とし,1951 年から1961 年にかけて米国の研究用原子炉で行われた.硼素化合物としてBorax,sodium pentaborate,phenylboronic acid のp-carboxyl 誘導体,sodium perhydrodecaborate が用いられた.結果は当時の術後放射線治療の成績を凌駕するものではなく,原因として硼素化合物の純度や腫瘍組織移行性,使用された中性子ビームの組織透過性などが問題とされた.第二世代のBNCT 研究は日本における複数の原子炉施設でsodium borocaptate (BSH) を用いて1960 年代から1980 年代にかけて行われ,BNCTの基礎および臨床研究が国際的に活性化する契機となった.
本発表では,現在行われいるboronophenyl alanine (BPA)を用いた加速器中性子源によるBNCTの臨床応用と,今日に至るまでの臨床研究の変遷を概説し,今後の方向性についても言及する。