主催: 日本臨床薬理学会
【目的】タクロリムスを使用する際、血中トラフ濃度が高値になると腎機能障害などの副作用が現れる可能性があるため、その投与量は通常血中濃度モニタリングを行い調整される。しかしながら、推奨血中濃度以下でも腎機能障害が発現する患者も存在するため、血中薬物濃度以外の患者情報も考慮しながら、患者個別に目標血中濃度を設定する必要があると考えられる。そこで本研究では、患者ごとにタクロリムス投与中の腎機能障害の発現を予測するモデルを構築することを目的とした。
【方法】入院中にタクロリムス経口製剤を投与開始した患者のカルテ調査を行い、臨床血液検査値、併用薬、およびタクロリムス全血中濃度のデータを収集した。予測の対象はタクロリムス投与開始後60日間における腎機能障害とし、AKI診断ガイドラインの基準を参考に血清クレアチニン値の上昇と定義した。5種類の機械学習アルゴリズム(ロジスティック回帰分析、サポートベクターマシン、勾配ブースティング木、ランダムフォレスト、ニューラルネットワーク)を用いて13種類のモデルを構築し、予測精度を比較した。また既存モデルとして、目標全血中濃度上限を超える場合に腎機能障害が発現すると予測するモデルを定義した。最もすぐれた精度を持つモデルの予測精度を、既存モデルの予測精度と比較した。
【結果・考察】合計204人の患者データを収集し、そのうち163人の患者データをモデル構築に使用し、41人の患者データを予測精度の評価に使用した。対象患者の多くは、炎症性疾患や自己免疫疾患の治療目的でタクロリムスを服用していた。最もすぐれた精度を持つモデルはサポートベクターマシンによって構築されたもので、評価用データに対する予測精度(F2-SCORE)は0.750であり、既存モデルの0.500を上回った。予測に必要な特徴量にはタクロリムス全血中濃度のほか、血中ヘモグロビン濃度、血中リンパ球数、血中アルブミン濃度などが含まれており、タクロリムスの血中でのタンパク結合に関わる特徴量が腎機能障害の予測に影響を及ぼしていることが示唆された。
【結論】本研究により、タクロリムスの全血中濃度と患者の特徴量を用いた機械学習モデルによって、患者個別に腎機能障害の発生を予測することが可能であることが示された。この予測モデルは、副作用リスクが高く個別の目標血中濃度を必要とする患者を特定し、腎機能障害を回避するための投与設計に役立つ可能性がある。