主催: 日本臨床薬理学会
【目的】東大病院Phase 1ユニット(P1)では、安全に試験を遂行するため、独自のヒヤリ・ハット報告システムを運用し改善を重ねてきた。第一報では、共有サーバーを用いた報告と報告書の共有が「速やかな報告・共有」に有用であることが示された。一方、同様の事象は繰り返し発生しており、事象の原因分析が行われにくいことが課題となった。そこで、今回、発見後速やかに原因分析を行いながら報告書を提出・回覧する院内の標準システムへ移行したため、その効果について報告する。【方法】対象は2021、2022年度のP1に発生したインシデント(ヒヤリハット含む)の報告書とその閲覧記録で、調査項目は、インシデント発見から報告/カンファレンス開催/報告書の閲覧までの期間、インシデントの種類や原因等である。各項目の記述統計量を算出し、繰り返し事象に対しては、対応策が有効でなかった原因も分析した。【結果・考察】2022年6月システム移行後の報告数は29件、うち軽微な侵襲を与えた事象は1件(規定外採血)であったが、インシデントに伴う試験逸脱はなかった。発見から報告までの期間は平均1日、カンファレンス開催までの期間は平均1.7日で、報告書閲覧までの期間は平均1.5日、閲覧率100%で、システム移行前(第1報)に比べ、期間短縮と閲覧率上昇を示した。一方、事象の繰り返しについては、「書類(版・Visit数)間違い」は6回、「帰宅前対応の漏れ」は4回繰り返され、対応策が遵守されておらず、その理由は、スタッフによって対応策の適応範囲が、事象が発生した試験に限定されていたためであることが明らかになった。そして、この原因には、P1が臨床試験に特化した専用病棟(試験ごとに手順やルール、運用が異なることが多い)であることから、試験が異なっても、対応策を同様の事象に適応するという標準化の意識が薄いことが考えられた。標準化とはベストプラクティスの共有手段とされ、P1においても、事象の対応策を臨床試験共通の手順やルールとして組み込んでいくことで標準化が進み、手順の定着や対応策の遵守に繋がることが期待される。【結論】院内の標準システムへの移行により、発見後速やかに原因を分析し、対応策を検討できるようになった。対応策の不順守にはP1独自の要因が考えられ、事象の対応策を臨床試験共通の手順やルールとして組み込んでいくことで標準化を進めることの重要性が示唆された。