主催: 日本臨床薬理学会
2010年2月から2020年8月までに日本で承認された44の抗悪性腫瘍薬を対象とした検討では、いくつかの薬剤において有害事象の発現率に国内外差があることが報告されているが(Uzu et al. BMC Health Services Research (2022) 22:1292)、その要因は不明である。本研究では、上記論文で外国人に比べて日本人で発現率が高いことが示された有害事象(骨髄抑制、肝障害、腎障害および間質性肺疾患)に焦点を当て、人口統計学的特性や臨床検査値等の個別データを活用することができるファイザー社が実施した臨床試験を対象としてその要因(内因性および外因性民族的要因の影響等)を検討した。はじめに、上述した有害事象について、国(日本 vs. 日本以外)以外の要因の有無を確認するため、有害事象発現の有無を応答変数、国とその他の患者背景因子を含む共変量を説明変数とするロジスティック回帰モデルを用いて評価した。例として、ある薬剤の好中球数減少を評価した結果では、好中球数のベースライン値が低いほど好中球数減少の発現率が高くなることが示された。日本人は外国人に比べ好中球数のベースライン値が低い傾向にあり、好中球数のベースライン値の違いが、外国人に比べて日本人で好中球数減少の発現率が高かった要因の一つである可能性が示唆された。上記の要因以外に、ある薬剤において、有害事象として報告すべき事象の捉え方が国(日本 vs. 日本以外)によって異なる可能性について検討した。臨床検査値に基づく客観的な評価を行うため、好中球数減少に焦点を当て、好中球数減少または好中球減少症の有害事象報告と臨床検査値のCTCAE Gradeに基づく評価との不一致の割合を確認した。その結果、Grade 1以上、Grade 2以上の臨床検査値に基づく好中球数減少は、必ずしも有害事象報告されておらず、報告の不一致の割合は外国人で高い傾向にあった。一方、Grade 3以上では日本人と外国人ともに不一致はほぼ認められなかった。Grade 1およびGrade 2の好中球数減少では、国(日本 vs. 日本以外)による有害事象報告の違いが、外国人に比べて日本人で好中球数減少の発現率が高かった理由の一つである可能性が示唆された。なお、本研究では、治験参加者が参加した治験実施医療機関が日本かそれ以外の国かで日本人と外国人を区別した。