主催: 日本臨床薬理学会
【目的】治療抵抗性統合失調症治療薬のクロザピン(CLZ)錠は、主にCYP1A2およびCYP3A4により代謝され、N-脱メチル体(NCLZ)、N-オキシド体(OCLZ)へ変換される。統合失調症患者では抗てんかん薬が併用されることがあり、特にカルバマゼピン、フェニトインはCLZ添付文書の併用注意で「CYP3A4を誘導して本剤の代謝が促進され、本剤の血中濃度が低下するおそれ」が記載されている。しかし、これらの薬物相互作用に関してCLZ、NCLZ、OCLZ血漿中濃度を同時に測定した論文報告はない。今回、CLZとカルバマゼピン、フェニトインの併用患者を経験したので報告する。
【方法】17歳から3年間CLZ服用中にカルバマゼピン併用を開始した非喫煙男性1例、29歳から2年間CLZ服用中にフェニトイン併用を中止した非喫煙男性1例において、併用時と非併用時の血漿検体を採取し、CLZ、NCLZ、OCLZの濃度を高速液体クロマトグラフィーで測定した。CLZ濃度[ng/mL]/CLZ用量[mg/日](C/D)比、NCLZ/CLZ濃度(N/C)比、OCLZ/CLZ濃度(O/C)比を比較し、1日カルバマゼピン併用量とC/D比、N/C比、O/C比との相関について検討した。
【結果・考察】カルバマゼピンに関して、C/D比、N/C比、O/C比(平均±標準偏差)は非併用時10検体で0.90±0.23、0.33±0.09、0.31±0.07、併用時11検体で0.13±0.03、1.42±0.27、0.46±0.17であった。カルバマゼピン併用時のC/D比は非併用時の0.14倍へ有意に減少し、N/C比、O/C比は4.3倍、1.5倍へ有意に増加した。またC/D比、N/C比はカルバマゼピン用量(0~600 mg/日)と有意に相関した。一方、フェニトインに関しては、非併用時4検体で0.86±0.20、0.35±0.02、0.20±0.01、併用時1検体で0.59、0.43、0.12であり、フェニトイン併用時は非併用時と比較してC/D比、N/C比、O/C比に有意差が認められなかった。
カルバマゼピン併用時でO/C比よりもN/C比での増加率が大きいことから、カルバマゼピンはCYP1A2誘導への寄与率も高いと考えられた。CLZ代謝を主に担うCYP1A2の誘導作用はカルバマゼピンのみで確認されておりフェニトインでは不明なため、フェニトイン併用時では有意な影響が認められないと考えられた。
【結論】カルバマゼピンは1日併用量に応じて、CYP3A4だけでなくCYP1A2を介した代謝も誘導することが本症例で示された。一方、フェニトイン併用によるCLZ体内動態の有意な影響は認められず、臨床上重要な併用注意かを含め今後さらに検討すべきと考える。