主催: 日本臨床薬理学会
【目的】疾患関連バイオマーカーから、病態進行を定量的に数理モデル化する手法として病態進行モデルがある。我々が開発してきたStatistical Restoration of Fragmented Time course(SReFT)[1]は短期データから長期病態進行モデルを構築する非線形混合効果モデルベースの手法である。追跡期間より長期のモデルを構築可能であり、数十年単位で疾患が進行する慢性疾患の解析に適している。SReFTは柔軟なモデルを構築できる一方、計算コストが高く大量のバイオマーカーを探索的に解析することは難しい。本研究では機械学習によって計算コスト下げた新たなアルゴリズムSReFT-Machine Learning(SReFT-ML)を用い、パーキンソン病の長期病態進行モデル構築を行った。またSReFTによる解析結果との比較も行った。
【方法】SReFT-MLはニューラルネットワークを活用しており、実装にはTensorFlowを利用した。SReFT-MLのソースコードはGitHubにて公開予定である。解析データはParkinson's Progression Markers Initiative(PPMI)から入手し、1,368名のパーキンソン病被験者を対象に、質問票スコアや臨床検査値など12個のバイオマーカーを解析に組み入れた。SReFTとの比較には過去に報告した解析結果を使用した [2]。
【結果・考察】SReFT-MLによる解析から、最大9年の解析データから20年程度の病態進行モデルを得た。MDS-UPDRSをはじめとしたパーキンソン病関連の質問票スコアは経時的な悪化を示した。CSF中のα-synucleinやp-tauは変化が乏しく、血清中NfLは上昇を認めた。以上のことからα-synucleinやp-tauは臨床症状より前に変化している可能性があるのに対して、NfLは臨床症状と同時期に変化している可能性が考えられる。SReFTによる解析結果との比較では二つの解析間で比較可能な内部パラメータに相関が見られた。異なる二つの解析が類似した結果を示したことから、得られた病態進行モデルには一定の妥当性があると考えられる。
【結論】SReFT-MLは計算能力の向上を実現し、大量のバイオマーカーから病態進行モデルを構築した。一方でニューラルネットワークをベースとするSReFT-MLは個人間差などの解析を得意としないため、SReFTとの組み合わせた運用が重要と考えられる。
【参考文献】
[1] Ishida, T.; Tokuda, K.; Hisaka, A.; et al. Clin. Pharmacol. Ther. 2019, 105 (2), 436-447.
[2] 神亮太, 他. 第41回臨床薬理学会学術総会. 2020. P-07.