主催: 日本臨床薬理学会
【目的】2型糖尿病患者は血管内皮が高血糖にさらされることで、心筋梗塞や脳卒中などの心血管リスクが2~3倍に高まることが知られている。これら心血管関連の合併症などの臨床的リスクを検討したACCORD (Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes) 試験は2型糖尿病患者を対象に行われ、血糖コントロールを厳格に行う強化療法が心血管リスクの低下に寄与するかを検討した[1]。ACCORD Study Groupの解析は追跡期間に対して行われたものの、心血管リスクが高血糖によるダメージなどによって引き起こされるのであれば、追跡期間ではなく罹患期間に基づいたイベント解析により真のリスクが評価可能となる。本研究では、短期の観察データから長期的バイオマーカー変化を推定する手法であるSReFT (Statistical Restoration of Fragmented Time course) [2]を機械学習ベースで開発したアルゴリズム(SReFT-ML)に基づき、糖尿病の長期病態進行モデルを構築し、加えてイベントリスク解析を実施した。
【方法】千葉大学薬学部倫理審査委員会の承認を受けて、米国国立心臓肺血液研究所が運営する臨床試験データリポジトリよりACCORD試験の匿名化された情報(計10,251名)を入手し、解析を実施した。病態進行モデルの構築にはSReFT-MLを使用し、生存時間解析にはPythonのライブラリであるlifelines (0.27.7)を用いた。SReFT-MLはgithubリポジトリにて公開準備中である。
【結果・考察】 最長7年の観察期間を有する限られた情報から、33種類のバイオマーカーの30年以上にわたる変化を捉えるモデルが得られた。特に心機能および網膜症に関連するバイオマーカーの変化については、加齢の影響に対する疾患時間の上乗せ効果が確認された。さらに、長期的な疾患時間上で死亡リスクの変化を捉えることができた。
【結論】機械学習に基づくSReFTを用いた大規模臨床試験データの解析により、糖尿病の長期病態進行を推定し、長期的な疾患時間上でのバイオマーカーの変化を捉えることができた。本解析手法による疾患進行の推定は、治療の介入時期や効果の予測、あるいは臨床試験の被験者選択に有用となることが期待される。
【参考文献】[1] H. Gerstein, M. Miller, R. Byington, et al. N Engl J Med. 2008, 358 (24), 2545-59[2] T. Ishida, K. Tokuda, A. Hisaka, et al. Clin. Pharmacol. Ther. 2019, 105 (2), 436-447.