主催: 日本臨床薬理学会
【目的】心不全は日本で患者数が最も多い疾患の一つである。特に慢性心不全の病態進行は十分に明らかにされていない。一般的な臨床試験は追跡期間が数年以内に収まっており、その間の推移を解析するが、慢性疾患の観察期間として十分でない。我々はそれらの短期的な臨床試験データを用いて長期の病態予測を可能とするアルゴリズムを開発しており、本研究は慢性心不全の疾患進行をThe Guiding Evidence Based Therapy Using Biomarker Intensified Treatment in Heart Failure(GUIDE-IT)試験の情報で解析することを目的とした。【方法】我々は母集団薬物動態解析の非線形混合効果モデルのアルゴリズムに基づいてバイオマーカーの短期の観察断片から数十年にわたる疾患進行をモデル化する方法,Statistical Restoration of Fragmented Time Course (SReFT)を開発してきた。今回はSReFTにニューラルネットワークを利用するSReFT-MLを解析に用いた。また、米国国立心臓肺血液研究所が運営する臨床試験データリポジトリ(BioLINCC)より心不全患者を対象に実施されたGUIDE-IT試験の匿名化被験者個別データ(894名)を入手した。予測対象の項目に絞って、適切に処理を行った。解析対象には腎機能および血液系の臨床検査値、NYHA分類などが含まれ、また特筆すべき項目として心不全の重症度を示すNT-proBNPの経時データが含まれた。【結果・考察】SReFT-MLにより16個のバイオマーカーの長期的な経時変化を推定した。血清クレアチニン、BUN、NT-proBNP、NYHAは上昇傾向が見られた。一方で、血球系や血圧については減少が認められ、一般的な慢性心不全と同じ傾向を示していた。複数のバイオマーカーで一貫して合理的な方向に予測ができたことから、全体として信頼度のある推定がなされたことが示唆された。 【結論】短期の観察データから長期の疾患進行モデルを構築する解析手法であるSReFT-MLを開発し、慢性心不全の解析に応用した。今回用いたGUIDE-ITの他にthe Beta-blocker Evaluation Survival Trial (BEST)等において同様の傾向が掴めており、慢性心不全の疾患進行について他の試験との比較について述べる。