主催: 日本臨床薬理学会
【目的】
Roundabout4 (Robo4) は、血管透過性の抑制を介して感染症・炎症病態を抑制することが知られている。Robo4は血管内皮細胞特異的に発現するが、すべての血管には発現せず、大血管の分岐部や微小血管に高発現している。しかし、Robo4がこうした部位特異的な発現パターンをとるメカニズムについては不明である。これまでにRobo4発現が血流のシアストレスにより制御されることが示されており、血管部位におけるシアストレスの違いがRobo4の部位特異的な発現パターンを生み出す可能性が考えられた。本研究では、シアストレス下流で働くことが知られているYAP/TAZシグナルが、Robo4の部位特異的な発現制御に寄与するかについて解析した。
【方法】
YAP/TAZ阻害剤 (verteporfin)、 TAZ活性化剤 (ethacridine lactate) 、もしくはYAP/TAZ に対するsiRNAを処理したヒト血管内皮細胞における、Robo4発現量を定量的PCRにより解析した。タモキシフェン投与により血管内皮細胞特異的に活性型YAP発現を誘導できるマウス(YAP5SAiECマウス)を作製し、各臓器におけるRobo4発現量を定量的PCRにより解析した。さらに、YAP5SAiECマウスとRobo4 LacZ knockinマウス(Robo4発現部位にLacZ を発現するマウス)を掛け合わせ、活性型YAP誘導前後のRobo4発現パターンをX-gal染色により解析した。
【結果・考察】
ethacridine lactate処理は血管内皮細胞のRobo4発現を増加させ、verteporfin処理は発現を減少させた。また、YAPとTAZそれぞれのsiRNAによるノックダウンでRobo4発現が減少し、両者のノックダウンでさらに強く発現が減少した。これらの結果から、YAP/TAZが Robo4発現を促進することが示された。タモキシフェン投与により活性型YAPを誘導したマウスでは、複数の臓器でRobo4発現が増加する傾向がみられた。またマウスの脳を用いたX-gal染色から、活性型YAP非誘導時には、脳血管の分岐部や微小血管にRobo4が発現していたのに対し、活性型YAP誘導マウスでは、微小血管全体や大血管に発現した。これらの結果から、YAPの活性化はRobo4の発現を増加させ、その発現パターンの部位特異性を消失させることが示された。
【結論】
以上の結果から、シアストレスの下流で機能することが知られているYAP/TAZシグナルが、Robo4の部位特異的な発現を生み出すことが示された。現在、部位特異的なYAP/TAZの活性化がシアストレスにより制御されるかについて解析を進めている。