日本臨床薬理学会学術総会抄録集
Online ISSN : 2436-5580
第44回日本臨床薬理学会学術総会
セッションID: 44_2-C-O09-5
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一般演題(口演)
高齢者の嚥下障害の回復を予測する機械学習モデルの構築-多剤併用を是正する減薬法の探索-
*重留 啓壱鬼木 健太郎高田 恵司建山 幸安田 広樹横田 美有山内 紗衣古郡 規雄山田 和範猿渡 淳二
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抄録

【目的】高齢者での薬の多剤併用は、有害事象の増加や生活の質の低下に繋がるため、適切な減薬が求められる。一方、嚥下障害は、誤嚥性肺炎や脱水と密接に関係しており、高齢者の重要な健康問題の一つである。我々はこれまでに、高齢者の嚥下障害は多剤併用で回復が遅延することを統計学的手法により示したが1)、多様な患者背景により必要な薬が患者毎に大きく異なるため、減薬すべき薬剤の特定には至っていない。本研究では、膨大な情報処理が可能な機械学習を用いて、適切な減薬法を提案するための予測モデル構築を試みた。

【方法】2014年4月から2016年12月までに桜十字病院に入院し、経管栄養を開始した高齢患者90名(年齢:82.5±9.5歳)を対象とした。初めに、嚥下機能に影響する要因を統計学的手法により探索した。次に、影響した因子をNeural Network(NN)に組み込み、対象者から無作為に抽出された63名(トレーニングデータ)を基に、経管栄養からの回復を予測するモデルを構築し、残りの27名(テストデータ)でモデルの性能を評価した。さらに、2019年3月から2021年8月までに同病院に入院し、経管栄養を開始した高齢患者20名(年齢:84.3±6.9歳)(バリデーションデータ)により、モデルの性能を再度評価した。その後、各因子が経管栄養からの回復に及ぼす影響の程度をSHapley Additive exPlanationsにより推定した。

【結果・考察】経管栄養の開始から1年以内に経口摂取に回復した患者は33名(36.7%)であり、服用薬剤数、総抗コリン負荷、抗認知症薬や浸透圧性下剤の服用が、未回復と関係した(p<0.05)。これらの因子を中心に、経管栄養からの回復を予測するNNモデルを構築したところ、テストデータにおける正確度は81.5%であった。さらに、本モデルはバリデーションデータを80.0%の正確度で予測でき、優れた汎化性能を示した。本モデルでは、服用薬剤数やヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2RA)の服用が、経管栄養からの未回復と強く関連した。H2RAの服用患者では、上部消化管疾患や認知機能の低下により、経管栄養からの回復が困難になると推察した。

【結論】本研究では、H2RAの服用を必要最小限に留めることが経口摂取への早期回復に繋がる可能性を示した。本研究結果が、高齢者での服薬の負担軽減と嚥下機能の早期回復、生活の質の向上を推進するものと期待する。

【参考文献】1) Takata K. et al., BMC Geriatr, 20, 373 (2020).

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