日本臨床薬理学会学術総会抄録集
Online ISSN : 2436-5580
第44回日本臨床薬理学会学術総会
セッションID: 44_2-C-S23-3
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シンポジウム
国産初のアンチセンス核酸医薬によるDMD治療剤ビルトラルセンの開発
*高垣 和史
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抄録

ビルトラルセン(商品名:ビルテプソ)は、日本新薬と国立精神・神経医療研究センター(NCNP)の共同研究により創製された、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)治療薬である。DMDは、小児期に発症し、進行性の筋力低下と筋萎縮を呈する最も頻度の高い致死性の遺伝性筋疾患であり、その病因は、ジストロフィン遺伝子のmRNAにコードされたアミノ酸の読み取り枠にズレが生じ、筋肉の基底膜と筋細胞の細胞骨格を固定し、天井と柱を支える梁のような役割を果たすジストロフィン蛋白が発現できないことである。

ビルトラルセンは、モルフォリノ核酸(PMO)を用いたアンチセンス核酸であり、エクソン53を対象とした「エクソン・スキップ」を作用機序として、DMDの病因遺伝子であるジストロフィン遺伝子のpre-mRNAに作用し、オープンリーディングフレームの回復により野生型に比べて少し短くなるが機能が期待出来るジストロフィン蛋白質の発現を促す核酸医薬品である。ビルトラルセンのFirst in Human試験は、2013年にNCNPによる医師主導治験として実施された。その後、企業治験(P1/2試験(日本)およびP2試験(北米))を実施して、2020年に、日本で条件付き早期承認、さらに米国で迅速承認を得て販売を開始した。

核酸医薬品は、ハイブリダイゼーションを利用して、配列情報を認識し標的配列特異的に結合する。標的分子の形を認識して作用する低分子や抗体とは作用の様式が異なり、従来の医薬品ではアプローチ出来ない遺伝子に直接作用できるのが特徴である。核酸医薬品は、低分子医薬品と同様に化学合成できること、配列情報を持つ高分子であることなどの特徴を持つ他、以下の様に医薬品開発に適した特長を持つ。

I 遺伝子情報に基づいて設計を行うため、迅速な医薬品設計が可能である。

II 核酸の基本構造が決まれば、化学的性質もほぼ決まるため動態や安全性が想定し易い。

こうした特性を活かした医薬品開発を軌道に乗せることが出来れば、開発コストを抑え、短期間で効率の良い創薬が可能になると考えている。このように、次世代の分子標的薬として期待されている核酸医薬品であるが、医薬品として開発プロセスは、未だ確立されたものではない。今回は、ビルトラルセンの開発を例として、我々の経験を紹介したい。

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