主催: 日本臨床薬理学会
我が国では2年間の試行を経て,2019年4月から費用対効果評価制度が本格導入された.これは先行する諸外国に比べて20年程度遅れたものの,この4年間の実績は一定程度の評価を得ている.対象となる医薬品の価値を測るには,比較対照薬と比べて増加した費用(増分費用)を増加した効果(増分効果)で除した増分費用効果比(ICER)を,一般的には閾値と呼ばれるその国での目安となる数値と比較することになる.ちなみに我が国の閾値は500万円/QALY程度とみなされている.また,QALYというのは生存年とQOLを同時に評価できる効果指標である.本来であれば,企業が自由に決めた薬価に基づき,こうした評価を行い,費用対効果に劣る(ICERが閾値よりかなり高い)場合は,償還を拒否する(その国の保険でカバーしない)か,ICERが妥当な範囲に入るように価格を調整(薬価を下げる)するのが自然である.それが価値に基づいた価格であるともいえる.ところが我が国には既に確固たる薬価制度が存在しているところに,この費用対効果評価制度を後付けしたことから,外国にはあまり見られない各種の矛盾が生じている.本邦では薬価算定組織というところで,ルールに基づいて公定価格(薬価)を定めているが,その薬価について,その後に費用対効果組織で評価を行い,薬価の一部分(加算部分等)の調整を行うという形を取っている.つまり,国が決めた価格をもう一度別の国の組織で調整している風にも見えてしまう.その場合薬価算定組織は,基本ルールとして類似薬効比較方式という類似薬に比べて優れている点があれば加算をつけるというやり方で薬価を決めている.この類似薬は上述した費用対効果評価の対照薬と同じと思われがちであるが,それぞれの組織が別々のルールで作業を行っていることから,両者が一致することは稀であることが判明している.これにより,加算がつくときに比べた相手ではないものを対照に費用対効果を評価して,その加算部分の調整をしているという奇妙なことが生じている.また,対照となった医薬品が原価計算方式というコストを積み上げた形でつけられた薬価を有している場合,それと比較することが果たして対象となる薬の正確な評価につながるのかという疑問も残る.そこで今回のシンポジウムにおいては,国のみならず医療提供者が行う費用対効果評価の活用法を検討する前提として,こうした制度上の問題点を整理して提示したい.