主催: 日本臨床薬理学会
【目的】心筋梗塞などにより誘導される心臓の炎症反応は心筋傷害を悪化させ心不全へ発展させる。よって、炎症反応の抑制を標的とした心不全治療法は基礎研究と臨床の両者で広く注目されている。近年、心臓の炎症反応にはサイトカインの他に脂質メディエーターも大きく関与することが知られるようになった背景から、本研究では心筋梗塞後炎症反応に関わる脂質メディエーターの網羅的探索を実施した。【方法】【結果・考察】C57BL/6Jマウスの左冠動脈前下行枝を結紮する事で心筋梗塞モデルマウスを作製した。その後、心筋梗塞後7日目と14日目のマウスから心臓と血清を回収し、リピドミクス法により脂質メディエーターのプロファイリングを行った。その結果、アラキドン酸由来n-6系多価不飽和脂肪酸である12-hydroxyeicosatetraenoic acid(12-HETE)が心筋梗塞後7日目と14日目のマウスの心臓と血清で増加した。次に、12-HETEが心臓の炎症反応に関与するかを調べるため、心臓の主要な構成細胞である心筋細胞と線維芽細胞に着目した。新生仔ラットから単離/培養した心筋細胞とラット腎由来線維芽細胞株に12-HETEを添加した後、炎症関連因子の発現を定量的RT-PCR法及びWestern Blot法により解析した。その結果、12-HETE添加により炎症性サイトカインであるinterleukin-6(IL-6)の発現増加と、炎症性サイトカインの発現を制御する転写因子cAMP response element binding protein(CREB)のリン酸化が促進された。【結論】12-HETEは心筋梗塞後のマウスの心臓と血清で増加すること、12-HETEが心筋細胞と線維芽細胞に作用し炎症反応を促進させることが明らかになった。したがって、12-HETEが心筋梗塞後炎症反応に対する新たな治療標的になりうると考えられる。