主催: 日本臨床薬理学会
日本人の性格と几帳面なところは、複雑で緻密な早期臨床試験に向いている。日本で実施した試験について、実施の正確性やばらつきの小ささを海外の研究者から驚かれることも多い。日本は元来、製薬企業も多く、日本が生み出した医薬品も比較的多い。国際化が進む以前は、これらの医薬品は日本でFirst-in-Human (FIH)試験はもちろん、開発は日本で先行することが多かった。そのため、日本では早期臨床開発の経験は豊富である。
ICH以降は国際共同開発が増え、日本の企業でさえ、早期臨床試験を海外で実施することが多くなった。外資製薬会社では、FIH試験は欧米で実施されることが多く、早期臨床試験を日本で実施するという発想がない。そのため、日本には早期臨床開発に適した施設や基盤があるあるにもかかわらず、欧米の開発研究者から認識されておらず、十分に活用されていない。また、日本の臨床薬理施設には、患者も比較的速く集めることができる施設があることも、ほとんど知られていない。
一方、日本やアジアを含めて効率的に医薬品を開発するためには、グローバル開発の早期から日本人でのデータを得る必要がある。その最も効率のよい方法が、日本人をFIH試験に含める方法であるが、海外で実施されるFIH試験に日本人を含める方法と、FIH試験を日本で実施する方法がある。前者については、パンデミック以前に比べて海外での日本人健康被験者の登録が難しくなっている。
ノバルティスでは、抗がん剤については、多くのプログラムでFIH試験に日本も参加している。抗がん剤以外では、2020年にアメリカの施設で開始したFIH試験で、COVID-19のパンデミックにより試験が中断したことをきっかけとして日本の施設を追加した。これで抗がん剤以外でも日本でのFIH試験の実施の実績ができ、試験実施の質のよさも海外の開発研究者に感じてもらえた。その後、別のプロジェクトで日本単独でのFIH試験実施を決定し、年内の試験開始に向けて準備をしている。このような実績を積み重ね、日本人のPhase 1データを規制当局が必須としているためだけではなく、FIH試験の実施施設として日本を選んで欲しい。また、日本が得意とする複数の疾患については、患者でのデータを早期に得ることにより、グローバルに貢献したい。日本を含む世界の患者さんのために、日本が強みを発揮できる早期臨床開発の分野で貢献できる機会を増やしたい。