主催: 日本臨床薬理学会
会議名: 第46回日本臨床薬理学会学術総会
開催地: 東京都千代田区
開催日: 2025/12/05 - 2025/12/06
p. 84-
肥大型心筋症の原因としてサルコメアタンパク遺伝子の「変異」(pathogenic variant)、拡張型心筋症の原因としてラミン、タイチン、ミオシン重鎖、フィラミンなどきわめて多様な遺伝子の「変異」が知られる。心筋症に対する遺伝学的検査による「変異」検出は、診断補助として有用、二次性心筋症との鑑別に有用、また、血縁者のカスケードスクリーニングに有用であり、「心臓血管疾患における遺伝学的検査と遺伝カウンセリングに関するガイドライン(2024年改訂版)」においてClass I~IIa推奨である。「変異」と臨床症状、薬剤反応性そして予後との関連性については、エビデンスが蓄積されている途上である。特に、心臓突然死を予測でき、ICD早期植込みの判断に資する「変異」の検出はその臨床的意義が大きい。 一方で、患者・血縁者だけではなく健常者をも含む多様な集団の大規模遺伝子解析研究から、心筋症関連遺伝子「変異」(pathogenic variant)と心筋症発症との間には一対一対応関係があるとする「古典的単一遺伝子疾患」の既成概念を超越した、遺伝子-病態連関が明らかになってきた。「変異」がなくても「変異」よりも効果が弱いvariant(レアバリアント、SNPなど)、加齢、合併症(高血圧、肥満、虚血など)、および環境因子が組み合わさって心筋症発症の事前確率を上昇させている。すなわち、「変異」は心筋症発症に必ずしも必要ではない。さらに、一般健常者集団の遺伝子スクリーニングにより、心筋症関連遺伝子にvariantが検出され、その一部は軽度の心機能低下と関連してはいるものの、将来的に心筋症発症に至るケースはけっして多くないことが示された。すなわち、「変異」があるからといって、心筋症発症に必ずしも十分ではない。心筋症は「変異があると発症不可避な疾病」ではなく、「変異が検出されなくても他要因によって発症し得る病態」「変異があったとしても発症するとは限らず、変異以外の他要因への積極的介入により避けることが可能な病態」である。 心筋症に対する遺伝学的検査の意義を医療スタッフと患者が正しく理解して、遺伝学的検査を現場に浸透させる必要がある。同時に、心筋症のgenetic architectureや遺伝子-病態連関を詳らかにする大規模ゲノム疫学研究を推進し、心筋症に対する遺伝学的検査の具体的内容(検出されたvariantの病因性解釈を含む)をアップデートし続けることが重要と考える。