社会学評論
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専門職における制度変革によるアノミー現象
藤本 昌代
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キーワード: 制度変革, 専門職, アノミー
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2008 年 59 巻 3 号 p. 532-550

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抄録

本研究は制度変革期(科学技術系国立試験研究機関の独立行政法人化)の事例から,変革後の適応期の専門職に起こる現象について分析を行ったものである.これまでの専門職論では専門職は職業に対する志向が強く,所属組織に依存しないコスモポリタン(職業人志向)であると考えられてきた.ところが制度変革期の動的組織にあっては,彼らにまったく異なる傾向が見られた.インタビューでは,合理化方針による雇用調整への不安をもつ非正規雇用の事務職だけでなく,研究職からも不安や不満が語られた.さらに変革に対する不安をアンケートデータを用いて,職種・従業上の地位の比較を行ったところ,正規雇用の研究職・管理職の方が,非正規雇用の事務職より不安が大きいことが示された.本稿では,この現象を〈相対的剥奪感〉〈ミッションの変化による葛藤〉〈研究者コミュニティの解体〉という観点から分析した.その結果,組織で優位にあった人々の自立性は,そのルールを成立させている社会に依存し,その社会のルールが変化する時,彼らの自立性は阻害され,不安を募らせたことが示された.そして彼らは,個々で自立的に専門分野へコミットしているがゆえに,集団の結束を強化することが難しく,組織の管理パワーの上昇に抗しにくかった.本稿は静的組織で自立的と考えられてきた専門職に起こったこの現象を,制度変革による動的状態でのアノミーであると結論づけている.

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© 2008 日本社会学会
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