社会学評論
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戦後日本の社会変動とハンセン病者による現実の意味構成
ある都市部療養所における「ふるさとの森」作りの取り組みから
坂田 勝彦
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2009 年 59 巻 4 号 p. 769-786

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抄録

本稿は,国立ハンセン病療養所「多磨全生園」入所者による「ふるさとの森」作りの取り組みを検討することで,戦後日本社会の変化を生きるなかで彼らがいかなる実践を通して関係性や生の意味を模索してきたか明らかにする.近代以降の日本においては国民国家の形成過程を通して,ハンセン病者を健康者から弁別し,療養所へ収容する隔離政策が進められ,1996年まで約1世紀にわたり続けられた.
他方でハンセン病療養所を取り巻く状況は,多磨全生園の場合,戦後日本社会で進む都市化の影響などによって大きく変化した。それまで自明だった日常が解体される状況に直面するなか,全生園入所者にとって,自らが生きる現実の意味を新たに構成することが重要な問題となった.
1970年代半ば以降,全生園入所者は「ふるさとの森」作りの取り組みを通して,療養所内外の他者と関係を再構築することを試みた.この取り組みを進めるなかで彼らは,隔離政策が付与した「ふるさとに帰ることができない」存在という意味づけに代わる,「第2のふるさとを作り上げてきた」存在という新たな生の意味を模索した.この取り組みとその軌跡からは,ハンセン病者が経験した喪失と生存の有様とともに,彼らが構成してきた意味世界の変容が明らかになる.

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© 2009 日本社会学会
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