社会学評論
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廃棄物処理施設の立地における受苦の「分担」と「重複」
受益圏・受苦圏論の新たな視座への試論
中澤 高師
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2009 年 59 巻 4 号 p. 787-804

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抄録

本稿の目的は,廃棄物処理施設立地をめぐる紛争事例の比較・分析を通じて,受益圏・受苦圏論に新たな分析枠組みを提示することである.従来,受益圏・受苦圏論は対象となるある1つの開発や施設がもたらす受益・受苦の構造のみを問題としてきた.しかし,柏市第二清掃工場建設問題においては事前的受苦圏と事後的受苦圏の対立が生じており,構造解明のためには,問題がそのうえに生起する既存の受益・受苦配置との関係から構造を捉える必要がある.本稿では日の出町第二処分場との比較から,既存の受苦圏とは異なる主体・圏域が受苦を分担する形で引き起こされる「受苦分担型」と,既存の受苦圏と同一の主体・圏域が受苦を重複して被る形で引き起こされる「受苦重複型」という2類型を提示し,紛争形態の相違について論じる.
「受苦分担型」の紛争である柏市第二清掃工場建設問題においては,施設の建設は既存の受苦の軽減という「配分的公正」の論理を帯びており,そのため反対運動の論理は「手続き的公正」を前面に押し出したものとなった.これに対して,「受苦重複型」である日の出町第二処分場をめぐる紛争においては,反対運動の「配分的公正」を求める論理が正当性をもった.また,柏市においては施設の「必要性」を疑問視する議論は「南北の負担の公平」という論理と衝突したのに対し,日の出町においては受苦の「配分的公正」を求める議論が,施設の「必要性」自体を突き崩していく論理を内包していた.

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© 2009 日本社会学会
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