抄録
分配原理についての規範的研究は,近年社会学においても注目を集めるようになった.これらの規範的な議論に対して経験科学を出発点とする社会学がなしうる貢献の1つの形として,ある分配原理を現実に適用した際に生じるさまざまな社会的影響を,社会調査データをもとにして見積もる,という方向性がありうる.本研究はこのような基本的なアイデアのもと,仮想的な所得再分配によって,人々の主観的幸福,そして主観的幸福の社会的総和がどのように変化するかを,2005年SSM調査データを用いてシミュレーション分析することを目的とする.本稿では平等主義の観点に立って,段階的に完全平等へと分配を変化させるという再分配方法を採用し,平等化の度合いによる幸福総和(平均)の挙動を分析する.このために,各個人・世帯のプロフィールに応じて,所得を独立変数とする主観的幸福(生活満足得点)関数を調査データから推定し,次にこれをもとに所得再分配後の主観的幸福の変化を予測する.
結果として以下の知見が得られた.第1に,個人所得,世帯所得いずれを対象にした場合も,段階的平等化所得再分配の平均幸福への効果は限定的である.第2に,平等化をある程度進めたところで平均幸福改善効果に飽和点が見られた.このことは,効率的に幸福を高めることを目的とする場合は,適度な平等分配が効果的であることを示唆している.