社会学評論
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『女学雑誌』におけるキリスト教改良主義と文学
「文学場」の形成におけるその意義
岡田 章子
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2009 年 60 巻 2 号 p. 242-258

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抄録

本稿は,『女学雑誌』の文学を,キリスト教改良主義による女性と文学の新しい関係性という観点から捉え,その新しい関係性が,後の『文学界』における文学の自律性を求める動きにおいて,どのような意義をもっていたのか,を検討するものである.
『女学雑誌』の文学志向は,当時の英米の女性雑誌に影響されたものであり,同時にそれは,明治20年代における「社会のための文学」という潮流において好意的に捉えられ,女性に向けて新しい小説を書く女性作家の登場を促した.彼女たちは,あるいは口語自叙体の小説によって女性の内面を語り,あるいは平易な言文一致体によって海外小説を翻訳するなど,独自の成果を生み出した.しかし,キリスト教改良主義の社会運動や道徳に縛られた文学は,やがて文学の自律性を求める『文学界』の離反を招き,「社会のための文学」ではなく,文学の自律性,ひいては社会における文学の独自の意義が追求されることになった.しかし,こうしたブルデューの定義するような「文学場」の構築を求める動きは,『女学雑誌』との断絶よりも,むしろ共通する「社会にとって文学とは何か」の問いを前提にしたものであり,しかも,樋口一葉という女性作家の,女性の問題のまなざしにおいて成立したという意味で,『女学雑誌』は日本の近代文学の成立において,従来論じられてきた以上に不可欠な役割を担っていた,といえるのである.

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© 2009 日本社会学会
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