抄録
本稿のテーマは,ライフストーリーがもつ時間と空間の基本的な枠組みを示すことである.語りの古典的モデルは,標準時間にもとづくクロノロジー的編成と語りが直接リアリティを指示しているという考え方にたっていた.それに対して,P. Ricoeurは語りの結末からの筋立てによるストーリーの時間のW及的特質を指摘した.これらは語りの時間の近代的秩序を表している.また,語りにはさまざまな社会的空間に応じたモードがある.それらは「制度的モード」「集合的モード」「パーソナル・モード」であって,語りの空間的枠組みを表している.ところが,こうしたライフストーリーの時空間の枠組みにあてはまらない〈中断された語り〉や〈ストーリーのない語り〉などの脱近代に特徴的な語りが登場してきている.ライフストーリー・インタビューにおいては,どのようなモードの語りであるかに注意を払いながら,インタビューにおける相互行為をリフレクシブ(reflexive)にとらえ返すことで脱近代に特徴的な語りを聞くことが求められている.