2010 年 61 巻 2 号 p. 168-185
本稿は,朝鮮籍を有する若い世代の在日朝鮮人の語りから,彼らのナショナル・アイデンティティについて考察し,さらには彼らが政治的/社会的に不利な状況を打破するために打ち立てる生存と連携のための戦略のあり方を明らかにするものである。
朝鮮籍者は,在日朝鮮人の法的地位が変遷していくなかで,一貫して管理対象として取り扱われ,「無国籍者」あるいは「北朝鮮国民」として一方的に規定されてきた.ただし,こうした管理体制のもとで,朝鮮籍者が一貫して受動的な生を営んでいるわけではない.朝鮮籍者はみずからが維持している朝鮮籍を,あらゆる眼差しを受けながら解釈しなおし,朝鮮籍に積極的な意味づけを行おうとする.また,こうした実践は,つねに日本人/日本籍者/「ダブル」など,異なる他者との日常的なコミュニケーションのなかで行われる.それゆえ,朝鮮籍問題をめぐる連帯構築に向けた模索からは,日常生活に根ざした「権力性を伴わない開かれた連帯」の可能性をうかがい知ることができる.