抄録
これまで都市社会学では, 都市と人々の紐帯の関連についての研究が古くから蓄積されており, 永らく, 農村に比べ都市では人間関係が失われてしまっているとする「コミュニティ喪失論」の観点からの研究が主流であった. そのような流れに対し, 1940~70年代の研究によって「コミュニティ存続論」が主張され, さらにその後の実証的な研究によって「コミュニティ変容論」と呼ばれる潮流が台頭してきている. しかしながら, これまでの日本の研究においては, 限られた紐帯の側面のみが検討されてきたこと, さらには限られた地域のデータが分析されてきたことから, 一般的にどの立場の議論がより妥当であるかについての検討が十分に行われてこなかった.
そこで本稿では, 全国調査データであるJGSS2003のデータを用い, 人々の第一次的紐帯の諸側面を総合的に分析することをとおして, 日本において「コミュニティ喪失論」「コミュニティ存続論」「コミュニティ変容論」のどれがより妥当であるかについて, 検討を行った. その結果, 日本の全国的な傾向において, 「コミュニティ喪失論」や「コミュニティ存続論」を支持する結果は得られず, 「コミュニティ変容論」がより妥当であることがわかった.