社会学評論
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62 巻, 2 号
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投稿論文
  • 学校と職業の接続に着目して
    多喜 弘文
    2011 年 62 巻 2 号 p. 136-152
    発行日: 2011/09/30
    公開日: 2013/11/19
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は, 生徒の進学期待・職業期待と学校トラックの関連のあり方の日本的特徴を検討することである. そのための比較対象として, 学校と職業の結びつき方において典型的な特徴をもつとされてきたアメリカとドイツをとりあげる. 分析には, 各国の教育機関に通う15歳の生徒を調査対象にしたOECDのPISAデータを用いる.
    先行研究で使われてきた3つの指標を用いると, 3国の学校と職業の接続のあり方は以下のように整理することができる. 日本は, 学校による階層化の度合いが大きく, 国内で標準化されている度合いも大きいが, 学校と職業資格や技能との結びつきの度合いは小さい. ドイツは, 3つの指標の度合いが一貫して大きく, アメリカは一貫して小さい. 以上の指標の組み合わせから, 各国のトラックが進学期待と職業期待に対してもつ影響力に関する仮説を立て, それを検討した.
    分析結果は以下のとおりである. ドイツではトラックが進学期待と職業期待を強く規定しているが, アメリカではこれらに対するトラックの規定力は弱い. これに対し, 日本では所属するトラックが進学期待を強く規定するが, 職業期待とは弱い関連しかもたない. 以上の分析結果は, それぞれの国の学校と職業の結びつきに関する3つの指標のパターンと整合的に解釈できるものであり, 学校と職業の接続を背景としたトラックが生徒のアスピレーション形成に及ぼす影響の日本的特徴が明らかになった.
  • 平本 毅
    2011 年 62 巻 2 号 p. 153-171
    発行日: 2011/09/30
    公開日: 2013/11/19
    ジャーナル フリー
    本稿では, 他者の「私事 (独自の経験やそれにかんする見解や態度) 語り」に対して「わかる」と明示的に理解を表明するやり方の, 会話の中での組織化のされ方を会話分析により記述する.
    Harvey Sacksによる理解の<主張>と<立証>の区別を参照して論じながら, 以下2点の問題が提起される. (1) 語りに対する理解の表明の形式としては「弱い」<主張>であるはずの「わかる」が, 「私事語り」に対する理解の提示においてしばしば用いられるのはなぜか, (2) 「わかる」を含む発話連鎖により, 理解の提示を組織化することはいかにして可能になっているのか.
    分析の結果, まず「わかる」は, 多くの場合単独では発されず, それに理解の<立証>の試みが付加されることにより<主張>の「弱さ」が補われることがわかった. このとき, 理解の<主張>は相手の語りの中途/語りの終了後の2つの位置に置かれるが, <立証>の試みは, 語りの終了後にしか置かれない. 理解の<主張>に加えて, 語りの終了後の位置で理解の<立証>を試みることによって, 聞き手は, 「私の心はあなたと同じ」であることを語り手に示しており, それを語り手が<受け入れ>るという発話連鎖を組織化することによって, 会話の中で理解が達成されることが論じられる. また, この「わかる」連鎖を利用した理解の提示は, 経験とそれへの見解や態度を語り手と聞き手が「分かち合う」かたちでのものであることが明らかになる.
  • 家庭の空間から身体感覚の空間へ
    山本 理奈
    2011 年 62 巻 2 号 p. 172-188
    発行日: 2011/09/30
    公開日: 2013/11/19
    ジャーナル フリー
    戦後, 日本社会の基礎構造が形成されたのは高度経済成長期である. この時期に生じた産業構造の転換は, 農村の解体とともに都市へ大量の人口流入をもたらした. その結果, 大都市とその通勤圏には, 俸給生活者とその妻子からなる核家族が広く見受けられるようになった. この大規模な都市化と核家族化の過程で重要な役割を果たしたのは「住宅」である. 従来の研究では, 住宅は近代家族の容器と見なされ, 近代家族規範が具体化された空間として捉えられてきた. しかしこの考え方では, 近代家族の実在性が前提されており, 住宅のありように近代家族規範の作用が強く想定されてしまう.
    本稿では, まず, 近代家族という概念を実体化し, 住宅をその具体的容器とみなす近代家族論の問題構成を批判的に検証する. 次に, 戦後日本社会の構造変容, すなわち消費社会化との関連で, 家族と住宅の関係を分析する. 具体的には, 都市における住宅の商品化とその変容のプロセスに着目し, 次の3点を解明する. 第1に, リビングルームの生成という観点から, 戦後の日本社会が<家庭>を単位とする消費社会として成立してきた過程を明らかにする. 第2に, 居住空間の変容が家族規範よりも産業システムの高度化と強く連動してきたことを明らかにする. 第3に, 現代の超高層集合住宅を参照し, 居住空間の分節の焦点が<家庭>から<身体>感覚の快適性の次元へと移行していることを明らかにする.
  • コミュニティ喪失論・存続論・変容論の対比から
    赤枝 尚樹
    2011 年 62 巻 2 号 p. 189-206
    発行日: 2011/09/30
    公開日: 2013/11/19
    ジャーナル フリー
    これまで都市社会学では, 都市と人々の紐帯の関連についての研究が古くから蓄積されており, 永らく, 農村に比べ都市では人間関係が失われてしまっているとする「コミュニティ喪失論」の観点からの研究が主流であった. そのような流れに対し, 1940~70年代の研究によって「コミュニティ存続論」が主張され, さらにその後の実証的な研究によって「コミュニティ変容論」と呼ばれる潮流が台頭してきている. しかしながら, これまでの日本の研究においては, 限られた紐帯の側面のみが検討されてきたこと, さらには限られた地域のデータが分析されてきたことから, 一般的にどの立場の議論がより妥当であるかについての検討が十分に行われてこなかった.
    そこで本稿では, 全国調査データであるJGSS2003のデータを用い, 人々の第一次的紐帯の諸側面を総合的に分析することをとおして, 日本において「コミュニティ喪失論」「コミュニティ存続論」「コミュニティ変容論」のどれがより妥当であるかについて, 検討を行った. その結果, 日本の全国的な傾向において, 「コミュニティ喪失論」や「コミュニティ存続論」を支持する結果は得られず, 「コミュニティ変容論」がより妥当であることがわかった.
  • 初期アルチュセールの理論的位相とその転回
    今野 晃
    2011 年 62 巻 2 号 p. 207-223
    発行日: 2011/09/30
    公開日: 2013/11/19
    ジャーナル フリー
    1965年の『マルクスのために』『資本論を読む』の出版により, アルチュセールは構造主義の代表として脚光を浴びる. こうした情況の中, アルチュセールは「重層的決定」概念を提起した. この概念は, 一般に「社会は政治, イデオロギーや経済等の諸要素が絡み合って現象する」ことを意味する概念として受容された. しかし, 彼がこの概念で提起した問題は, 通俗的見解に納まらない. 本稿においては, まず彼がこの概念を提起したコンテクストを綿密に追い, その意義を明確にする. ここで重要なのは, この「重層的決定」が社会的現実の多様性をいかにして捉えようとしたかである. この考察によって彼の理論が相矛盾する解釈, 熱烈な評価と同時に激しい批判を引き起こしたか明確にできる. 次に, この重層的決定との関連において, 彼がその後提起した「徴候的読解」を考察する. しかし, この2つの概念にはあるズレがあった. このズレは, その後のアルチュセールの「理論的転回」の本質を明確にするであろう. ただし, ここで明確になるズレは, 彼の理論に固有なものというよりも, すべての社会学的な認識や理論が必然的に直面しなければならないアポリアでもある. アルチュセールの理論的転回を見ることで, 我々はこのアポリアを明確にすることができるだろう.
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