社会学評論
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ファッション・デザイナーの変容
モードの貫徹と歴史化の行方
小形 道正
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2016 年 67 巻 1 号 p. 56-72

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抄録

本稿の目的は日本社会におけるファッション・デザイナーの, 〈芸術家としてのデザイナー〉の形象の生成と瓦解について析出するとともに, その変容の社会的意味について明らかにすることである. とくにここではデザイナー自身の発言と活動, ならびに彼らを取り巻く産業とメディアの双方の視点より分析を行う.

まず1970年代から80年代にかけて, 彼らは自らのデザインへの言及とその作品化を試みるとともに, 組合の結成とファッション・ショーの開催を果たした. 一方産業ではこれらを可能にする多品種少量生産と短サイクル化が実現し, 評論家や哲学者による批評空間も成立した. 〈芸術家としてのデザイナー〉の形象は, こうした彼ら自身と環境の連関のなかで形成された.

だが1990年代以降, SPA企業と高級ブランドのコングロマリットによる産業再編が生じ, 批評空間も社会学者やマーケターによる消費者の分析へと移行していく. また彼らはこの状況に批判的でありながらも, 企業組織としてグループ化やコラボレーションを実践する. そこにはブランドへと包摂される, 〈企業組織人としてのデザイナー〉の姿がある.

このようにファッションの現在は新たな形象のもと, デザイナーによるモードの創出を困難にする一方, マーケティングの世界とそれに戯れるコーディネートの感覚が拡がっている. だがこれはモードの貫徹した姿であると同時に, ファッションの歴史を描く今後の課題を呈示している.

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