社会学評論
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特集号・沖縄と社会学
出生力と家族にみる沖縄
周辺化された人口・生殖をめぐる政治
澤田 佳世
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キーワード: 出生力, 家族, 沖縄
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2016 年 67 巻 4 号 p. 400-414

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抄録

本土復帰後, 沖縄の出生率は日本で最も高い水準を維持している. 高出生力を誇る沖縄は, 家族に価値をおく社会でもある. こうした中, 「少子化」する日本社会で, 相対的に高い出生率を維持する沖縄県に政策的な関心が寄せられる向きもある. 一方, 沖縄は, 出生力と家族の戦後史を日本本土と共有していない. 近代の家族と社会変動の理論的基盤となる人口転換 (とりわけ出生力転換) は, 沖縄では, 本土から切り離された米軍政下で始まった. 当時の沖縄は, 優生保護法も政府主導の家族計画の推進もなく, 中絶と避妊の法的・社会的位置づけが本土とは異なっていた. 加えて, 家族形成の軸となる父系血縁原理が, 女性に男児出産の役割期待を課していた.

本稿は, 日本で最も高い水準にある沖縄の出生率を, 人口転換が始まった本土復帰前, すなわち米軍統治下の歴史的・社会的文脈に位置づけて捉えなおす. 戦後, 本土から切り離され米軍統治下におかれた歴史的事実, および厳格な父系血縁原理に依拠する固有の家族形成規範は, 沖縄の出生力と家族形成のあり方にどのような影響を与えたのか. 人口研究における出生力分析の包括的枠組みに依拠しながら, 出生力・家族研究が自明視する国民国家・日本という分析枠組みを相対化し, 沖縄という周辺地域の出生力と家族に投影された人口・生殖をめぐる政治に接近する.

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© 2016 日本社会学会
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