社会学評論
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67 巻, 4 号
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特集号・沖縄と社会学
  • 安藤 由美, 藤井 和佐
    2016 年 67 巻 4 号 p. 365-367
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー
  • 共同体像の形成と再考
    宮城 能彦
    2016 年 67 巻 4 号 p. 368-382
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    社会学者による沖縄研究の幕開けは, 九学会連合社会学班によって日本復帰前後の1971~73年に行われた調査である. それらは沖縄村落社会の特質の理解と日本における沖縄村落の位置付けについての暗中模索であった. その時に持ち込まれたのが「家」を単位として村落構造をとらえる研究手法と理論仮説であったが, それは沖縄の村落では通用せず, 門中研究についても多くの課題が残った. しかしその時に, 寄生地主制が発達せず, 比較的平等で相互扶助的・自治的機能が高いという沖縄村落共同体像の基礎が形作られたといえよう.

    その後, 門中研究が深化する一方で, 社会学者たちの興味は, 基地や経済的自立問題へとシフトしていく. 他方で沖縄在住の社会学者は, ウェーキ・シカマ関係 (隷属的生産関係) や共同店, 沖縄村落の停滞性に重点をおいた研究を行ってきた.

    2000年代以降は, 日本やアジアとの比較の中で沖縄村落社会の特質を明らかにすることよりも環境や地域自治などをテーマとした研究の事例としての沖縄村落がとりあげられることが多くなっていく. その一方で, 隣接する歴史学や経済史, 法社会学等では, 近世沖縄村落における共同関係の脆弱さが強調されるようになってきた.

    近世村落における強固な共同体を前提に展開し, ある種のユートピア的共同体像を描いてきた社会学における沖縄村落共同体研究も現在その見直しが迫られている.

  • 郷友会組織の理念と現実
    難波 孝志
    2016 年 67 巻 4 号 p. 383-399
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は, 沖縄の郷友会について概念的な再整理を行うこと, そしてこれまで扱われることが少なかった軍用地との関わりをもつ郷友会について, 軍用返還跡地再利用の過程を通してその現実と今後の行方を考察することにある. 2015年4月, 沖縄県北中城村にオープンした全国資本の巨大ショッピングモールは, 沖縄の軍用跡地再開発の最新の事例である. この事業に大きな役割を果たしたのが, この地区の地権者の多くが加入する郷友会であった. このように軍用地などの共有財産の管理のための地縁的組織を, ここではアソシエーション型郷友会と呼ぶことにする. これまでの沖縄における郷友会研究は, 社会学における都市移住者コミュニティ研究そのものであった. これに対してここで扱う郷友会とは, 利益集団であって, アソシエーションである. そして, アソシエーションであるからこそ, 社会学の研究対象になりにくかったといってもよい. ただ, 沖縄社会では, この両者が同じ「郷友会」というフォークタームで混同して使われているのも事実である. 本稿では, 巨大ショッピングモールの再開発を事例に, その経過を分析することによって, 軍用跡地利用の合意形成と沖縄社会の行動原理の根本ともいえる郷友会のシマ結合について考察した. 結果として, (1)経済的機能を失ったアソシエーション型郷友会の存続可能性, (2)経済的機能以外の他の機能の消滅への危惧, (3)郷友会解体過程におけるシマ結合のゆるぎない存続, などのポイントを摘出した.

  • 周辺化された人口・生殖をめぐる政治
    澤田 佳世
    2016 年 67 巻 4 号 p. 400-414
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本土復帰後, 沖縄の出生率は日本で最も高い水準を維持している. 高出生力を誇る沖縄は, 家族に価値をおく社会でもある. こうした中, 「少子化」する日本社会で, 相対的に高い出生率を維持する沖縄県に政策的な関心が寄せられる向きもある. 一方, 沖縄は, 出生力と家族の戦後史を日本本土と共有していない. 近代の家族と社会変動の理論的基盤となる人口転換 (とりわけ出生力転換) は, 沖縄では, 本土から切り離された米軍政下で始まった. 当時の沖縄は, 優生保護法も政府主導の家族計画の推進もなく, 中絶と避妊の法的・社会的位置づけが本土とは異なっていた. 加えて, 家族形成の軸となる父系血縁原理が, 女性に男児出産の役割期待を課していた.

    本稿は, 日本で最も高い水準にある沖縄の出生率を, 人口転換が始まった本土復帰前, すなわち米軍統治下の歴史的・社会的文脈に位置づけて捉えなおす. 戦後, 本土から切り離され米軍統治下におかれた歴史的事実, および厳格な父系血縁原理に依拠する固有の家族形成規範は, 沖縄の出生力と家族形成のあり方にどのような影響を与えたのか. 人口研究における出生力分析の包括的枠組みに依拠しながら, 出生力・家族研究が自明視する国民国家・日本という分析枠組みを相対化し, 沖縄という周辺地域の出生力と家族に投影された人口・生殖をめぐる政治に接近する.

  • 反公害住民運動のつながりと金武湾闘争
    大野 光明
    2016 年 67 巻 4 号 p. 415-431
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本稿では, 「沖縄問題」がどのような力学のもと構成され, 変化するのか, そして, 人びとによって経験されてきたのかという問いをたてる. 具体的には, 沖縄の日本復帰直前の1970年代前半から復帰後の70年代後半の時期に焦点をあて, 宇井純 (1932-2006) が中心となり取り組まれた自主講座運動が, 日本本土と沖縄, そしてアジアの反公害住民運動をつなげ, 「沖縄問題」を提起した意味を検討する.

    復帰後の沖縄社会は, 「沖縄問題」をめぐる関心の減少, 沖縄振興開発計画に伴う開発の促進と観光地化, そして基地問題の非争点化という特徴をもつ. だが, 復帰後, 「沖縄問題」への関心を持続させ, 国家と資本, さらには両者の開発主義を受容する革新県政を批判したのが反公害住民運動であった. その特徴は, (1)沖縄への日本資本の進出を公害問題の実態に基づき批判したこと, (2)「沖縄問題」を日本本土との加害/被害や支配/被支配といった枠組みだけではなく, 遍在する公害問題をつなぐ形で再構成した点にある. 本稿は, 金武湾闘争を通じて反公害住民運動が, 国家と資本, そして革新県政による沖縄の問題化に対し, 別の政治の回路を開いたことを明らかにする.

  • 普天間基地移設問題を事例に
    熊本 博之
    2016 年 67 巻 4 号 p. 432-447
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は, 普天間基地移設問題を事例に, 米軍基地をめぐる政治が沖縄に何をもたらしてきたのか明らかにすることである. 補完性原理を理念的背景にもつ地方自治法第1条の2が定めている国家存立事務には, 外交や防衛が含まれている. それを根拠に, 政府は, 沖縄県の強い反対があるにもかかわらず, 名護市辺野古区への普天間代替施設の建設を進めている.

    そして辺野古区は, 条件つきで普天間代替施設の建設を容認している. 米軍基地と深い関係をもっている辺野古区は, 米軍基地への反対を主張しづらい地域である. それに加えて, 沖縄県が米軍基地についての決定権をもっていないため, 反対しても建設を止められる保証はない. だから辺野古区は, 条件つきで受け入れを容認し, 政府との交渉を進めているのである. こうした辺野古区の行動は, 沖縄県が米軍基地に対する決定権をもっていない以上, 沖縄がおかれている状況を集約したものであるといえよう.

    このような政治的環境のもと, 沖縄の人たちが米軍基地問題をどのように経験しているのか描き出していくこと, そして政治が沖縄社会にもたらしているものの意味を捉え, そこから政治がもつ問題性を析出することが, 社会学には求められている.

  • 沖縄県金武町を事例として
    野入 直美
    2016 年 67 巻 4 号 p. 448-465
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    本稿では, 沖縄本島中北部に位置する金武という地域に着目する. 金武町は, 沖縄の海外移民発祥の地であり, 沖縄の米軍基地の中でも危険度の高さで知られるキャンプ・ハンセンを抱える基地の町でもある.

    金武はいかにして「海外雄飛の里」となり, また基地の町となったのか. 本稿では, 金武町における移民をめぐる地域アイデンティティの構築を, 移民送出期の歴史よりも戦後の地域再編成に着目して検討する. 沖縄の移民研究には, 戦後の沖縄社会が成り立ってきた過程の中に移民の議論を位置づけるものがほとんどない. 本稿では, 金武町の戦後の成り立ち, 地域アイデンティティの構築をめぐって, 移民と米軍基地がどのように関連しているのかを考察する. これは沖縄の移民を, 戦後の沖縄社会の成り立ちの中に位置づける試論である. また地域アイデンティティの議論に, 越境という要素を取り入れる試みでもある.

    また, 本稿では, 戦前の金武村で暮らしたハワイ沖縄帰米2世と, 現代の金武町で育ったアメラジアンのライフヒストリーをとりあげる. 彼らの語りは, 移民送出期が終わった後の金武における多様な越境を照らし出す. 仲間勝さんと宮城アンナさんは, 2つの故郷を同時に生きる越境者として, 困難の中で仕事を立ち上げ, 模索を重ねて学んできた. そのとき, 彼らは期せずして, 地域アイデンティティの構築につながる関与を行っている. 本稿では, そのような関与に着目して越境者の生活史をとりあげる.

  • 岸 政彦
    2016 年 67 巻 4 号 p. 466-481
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    この論文で私は, 沖縄が語られるその語られ方の変化について書く. 具体的に取り上げるのは, 沖縄本島にあるA市の市史編纂室によって書かれる予定の, 新しい市史の取り組みである.

    この地域誌は, 行政が公式に発行する, いわばその地域の「教科書」である. それはその地域の, あるいは沖縄そのものについての「語り方」を規定する力を持っている.

    本論で特に, 沖縄本島にある「A市」の市史編纂室における新しい実践を考察の対象とする. A市史民俗編には, 古くから存在し, 沖縄的な伝統芸能や習慣を伝える集落だけではなく, 団地や建売住宅のニュータウンなども含まれることになっている. このことは, それまでの地域誌の民俗編が, 本来的な, 真正なる沖縄文化を記録し後世に伝える目的で書かれていたことを考えると, 画期的な試みであるといえる.

    本論ではA市の市史編纂室での聞き取り調査を通じて, 沖縄の語り方はどのように変わりつつあるのか, 語り方を変えるときに何が起きているか, それはどのようにして可能になるのかについて考える.

  • 鳥越 皓之
    2016 年 67 巻 4 号 p. 482-495
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー

    沖縄は地域を研究する社会学的研究にとって見過ごすことができない2つの特徴をもっている. 1つは, そこはながらく独立国であって, 日本併合に対する不信が存在する. それは政治的イデオロギーを超えて, 小さな村の住民にも, 「沖縄世」への憧れとして存在している. それが現在の米軍基地反対につながっている.

    もう1つは日本民俗学を中心にした南島研究の研究者たちが沖縄を日本の原郷として位置づけ, 膨大な資料を蓄積し, 数多くの注目すべき論文を発表しつづけてきた. それは日本民俗学の巨人, 柳田国男と折口信夫が沖縄研究に多くの労力を割いたことが大きい.

    このような事実をふまえて, 社会学が沖縄にどのような貢献をし, どのような限界をもたざるをえなかったのかを本稿では示した. 基本的には, 社会学を狭義に位置づけて, 歴史的・政治的課題および南島論に示された文化的課題をとりあげないようにしたこと. そのように自己の課題を狭めたことによって, かろうじて社会学を成立させてきた経緯がある.

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