2018 年 69 巻 2 号 p. 203-216
本稿で取り上げる『参照基準社会学分野』とは, 2014年9月に日本学術会議から公表された公的文書である. 日本社会学会社会学教育委員会は日本学術会議社会学委員会と協働で策定作業を行った.
この参照基準の問う「質保証」とは, 単に, 社会学的知識のレベルを引き上げ標準化をはかるものではない. 社会学を学ぶ学生たちが, その学びを通して現代社会を生き抜く素養や能力を獲得するプロセスを保障するために, 社会学は何を, どのように教えることができるのか, についての枠組みの指針であり, いわば, 視座の転換を伴った共通知である.
本参照基準は, 今日の国内外の社会情勢に対応した大学教育の改善を求める2つの社会的要請――文部科学省からの要請と日本社会学会内部からの要請――をバックにして誕生したといえる. これらが日本学術会議社会学委員会からの協力依頼を契機として重なり合い, 明文化されたのである. その結果, そこには「上からの統制のリスク」と「下からの主体的改革」というせめぎあいが内包されている.
このような特色をもつ参照基準をどのように生かすかは, 多様な教育現場で悩みながら日々学生と向き合っている社会学教育担当者に任されている. 参照基準をたたき台として, 社会学の魅力の再発見と社会学教育の新たな可能性について議論が交わされることを期待している.
本稿の目的は, そのための一助として, 参照基準策定の経過, 概要, 評価, 今後の展開について論述することである.