2021 年 72 巻 3 号 p. 224-240
軍事社会学は,軍隊を社会がどのようにコントロールするかを課題とする政軍関係論への社会学的アプローチとして誕生し,戦争の形態に応じて変化する軍事組織の姿,およびその社会との関係に注目しつつ展開してきた.徴兵制の廃止を経て,労働市場に属する職業のひとつとなった軍務をどう理解するか,さらに冷戦終結を経て「新しい戦争」への対処において変化する専門性および組織的特徴をどう捉えるかがテーマとなっている.C. モスコスの「ポストモダン・ミリタリー」論は,それらを比較研究するうえで有意義な枠組みである.それに加え現在,軍隊は一般社会から区別された特別な集団・場所ではなく,市民社会の一般的な規範を受け入れる(べき)場と捉えられるようになっていることを考えれば,現代の軍隊の変容を,旧来の「軍隊らしさ」に拘らず,反省的な自己観察と再構築・自己呈示を繰り返す再帰的な過程の加速において理解する視点として,「ポストモダン」を軍事社会学に導入する必要が出てくる.
「ポストモダン・ミリタリー」論は,日本の自衛隊を理解するうえでも実に 示唆的である.ただし,たんに軍隊組織のポストモダン的な特性の観点から自 衛隊に焦点を当てるだけでなく,軍隊と社会の相互観察のプロセスに焦点を当 てた理論枠組みとしての含意を認識する必要がある.日本における「ポストモ ダン」の検討や,「戦争の記憶」と自衛隊の関係,社会との接点である自衛隊 広報活動などが研究課題となりうるだろう.