2021 年 72 巻 3 号 p. 208-223
1990年代以降,移行期正義(transitional justice=TJ)とよばれる政策が,紛争後復興・戦後処理の文脈で一般化してきた.TJの制度的な選択肢は複数あるが,その中心となるのはローカルオーナーシップを重視する国際法廷と真相究明・証言聴取を軸とする真実委員会である.本稿は,「TJはどのような社会的影響をもたらすか」という問いを検討し,併せて,紛争後に特有の社会状況を理解する視点を提示することを目的とする.
本稿はまず,TJの取り組みがどのような時代背景のもとで生じ,どのような制度として発展する一方,どのようなジレンマを抱えた活動であるのか,という点について整理する.その上で,TJの制度的バリエーションに共通して確認される特徴を,TJの制度設計を支える「公式シナリオ」の認識を通じて把握するとともに,一連の活動を「期待される集合行為のパターン」から整理する図式を提示する.次に上記の特徴に着目する実証研究を取り上げ,「公式シナリオ」に対する現地社会の対応にみられる逸脱や派生的な取り組みの実態と意義に焦点をあてる.そこで提起される論点が,TJを通じた公的な期待は必ずしも実現しないが,紛争状況への後退は回避される形で秩序の再構築へ向けた自律的な取り組みが促進される可能性である.