社会学評論
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1950年代文化運動における作品発表と作品受容
―国民文化全国集会を事例に―
長島 祐基
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2021 年 72 巻 3 号 p. 344-361

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抄録

本稿ではP.ブルデューの作品受容研究の視点から,国民文化全国集会を事例として1950 年代の大衆的な作品発表会における参加者の作品受容の差異とそうした差異が発生する要因を考察した.近年のサークル研究は作品創造を通じた作り手の主体形成や,作品を通じた作り手と受け手の共感の形成を指摘してきた.一方で大衆的な作品発表が多様な観客に与えた影響の差異や,そうした差異が生じる要因は詳細に検討されてこなかった.本稿では分析を通じて既存のサークル研究が提示してきた運動像の乗り越えをはかるとともに,美術館を対象とするブルデューの作品受容論から文化運動の作品発表会を捉える際の 意義と課題を検討した.

国民文化全国集会の参加者の態度表明には学生,文化団体関係者,労働者といった参加者が所属する運動における作品の位置付けや,作品発表団体の文化的差異が影響した.この点でブルデューの作品受容論は大衆的な作品発表会における作品受容を捉える上で有用である.ただし,こうした社会各層毎の作品受容の差異は作品のコンセプト(「コード」)の提供不足や参加者相互の交流の不在という条件下において生じたものであり,一連の条件が変化していれば作品受容は異なる形になった可能性がある.また,絵画を対象としたブルデューの作品受容論では,演劇など他ジャンルの作品受容を十分に捉え切れない面がある.これらの点はさらなる検討が必要である.

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