社会学評論
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個体群の統治メカニズム
―現代社会の統治を検討するモデルとしてのミシェル・フーコーの安全概念―
中村 健太
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キーワード: 安全, 個体群, 統治
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2022 年 73 巻 2 号 p. 103-118

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抄録

現代社会はグローバル化や価値観の多様化により,さまざまな人と出会う可能性があると同時に,いつ問題が起こるかわからない不確実性も抱えている.こうした社会の統治を捉えるために有効なのが,ミシェル・フーコーの安全メカニズムである.しかし安全メカニズムに言及した研究は,安全メカニズムが,個体群という統治対象を,正常値とよばれる値にもとづいて統治しているという視点を見落としている.そこで本稿は,現代社会の統治をめぐる新たな視座の構築を目的として,フーコーの安全メカニズムを分析した.

分析の結果,以下の特徴が明らかになった.第1に,空間を開放し,自由な流通を促進することで,市場経済を活発化させる.第2に,それに伴うさまざまな危険の発生をあらかじめ阻止しようとはしない.第3に,人間をヒトという生物種として捉え,その集まりを指す個体群を,正常値にもとづいて統治する.

また安全メカニズムは,フーコーが自由主義的統治性とよぶ統治メカニズムとも深く関わっている.本稿ではこの観点からも安全メカニズムを分析することで,安全メカニズムが,規律などの他のメカニズムを利用して社会を統治していることを示した.そして安全メカニズムは,自由に伴う不確実性を前提とする統治メカニズムとして提示可能であり,価値観が多様化し,活発な流通が行われている現代社会を捉えるための視座を有することを明らかにした.

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© 2022 日本社会学会
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