社会学評論
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特集「国境と性―複数の境界線を問いなおす」
性的マイノリティのトランスナショナルな移住と家族形成
―韓国人女性を事例に―
申 知燕
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2023 年 74 巻 3 号 p. 415-434

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抄録

本研究は,韓国出身の性的マイノリティ移住者を事例に,性的指向が国際移住と都市空間に及ぼす影響を明らかにした.グローバル化社会において,国内の性的マイノリティに対する差別的な社会規範や抑圧は,同性婚が合法化されている国や同性婚に準ずる制度のある国など,社会制度の整備が進んでいる国への国際移住を触発させる要因となりうる.移住者たちは,同性パートナーとの家族形成が可能であり,かつキャリアを続けながら長期滞在者向けのビザや永住権を取得できる国,そして言語や文化,気候などが合う国を検討し,トランスナショナルな移住を戦略的に計画・実行する.その結果,かれらはグローバルノース諸国の大都市への移住を実現し,移住後は法律的・社会的な状況の変化による家族形成と,日常生活における人権の向上を経験する.ただし,移住先の都市にはかれら以外に,キャリア形成や自己実現のために海外を行き来しながら母国の社会規範を持ち込むヘテロセクシュアルの移住者も多く存在するため,移住先都市は移住者間の人的ネットワークと価値観が多層的に絡み合う場となる.すなわち,トランスナショナルな移住は,個人を性的に自由にすると同時に,送出国の政治的・社会的状況と移住先の人々の間を新たな関係性で結びつけ,移住先の社会や空間を変化させていくのである.

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© 2023 日本社会学会
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