2023 年 74 巻 3 号 p. 486-501
本稿の目的は,主観的経済状況によって排外主義的ナショナリズムを説明できるのか検証することである.従来から,主観的あるいは客観的な経済状況によって排外主義的ナショナリズムを説明することが試みられてきた.しかしながら,実証研究においても結果は一貫していない.本稿では,Shayo(2009)の理論と社会的アイデンティティ理論に依拠する.その予測から,従来の一貫しない結果をナショナリズムの類型という観点を持ち込めば説明できることを主張し,計量分析によって検証する.分析には,インターネットモニターを対象としたパネルデータを主に用いる.潜在クラス分析の結果,先行研究通り排外主義的ナショナリズムは2種類(エスニック・ナショナリズムとウルトラ・ナショナリズム)に区別できる.固定効果二項ロジスティック回帰分析および固定効果多項ロジスティック回帰分析の結果,エスニック・ナショナリズムは,主観的経済状況によって説明できる一方でウルトラ・ナショナリズムは説明できないことが示された.ナショナリズムを多様なものと捉えれば,主観的経済状況が悪い場合にエスニック・ナショナリズムをもちやすいことがわかった.